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第46話 違和感のその先 3
消えてない。確かにある。
はっ!もしかして、発情期なのにαのフェロモンを感じなかったのはこれの・・・?
「あ、ああああ綾木っ、おま、ラット化・・・?」
「うん。そーみたい。茜にしゃぶって貰えたの、相当キちゃってたんだよな~。俺も夢中になり過ぎてて後で気付いた」
ははは、と照れ笑いする綾木。
そんなかわいこぶった笑顔でごまかそうったってそうはいかないぞ!
この一大事を、何故そんなに呑気に・・・しかも「社長でしたー」のついでに報告するとはなんてヤツだ!!
「お前は本物のバカだ!お、俺が、どんなに・・・」
「うん。知ってる。だからこそ自分の目で確かめてから言いたかった。俺だって初めての経験だったんだぞ。何が起こってんだ?って感じだったし」
そんなぁ・・・
ヒート時は体が快感に溺れ 意識が飛んでしまうことはよくあるし、そうでなくても性行為中の記憶は曖昧だし覚えていないなんてこともしょっちゅうだ。
でも、でも、綾木がラット化していたことにも気付かなかったなんて・・・
うう~っ、大損をしてしまった気分だ。
ラット化したαは、射精すると同時に男性器の付け根にある『ノット』と言われる部分が膨らむ。ノットが栓の役割をしてαの射精中はΩの中から抜く事ができなくなる。より多くの精子をΩの体内に残せるようにらしいが。
お、俺は、何をしていたんだ!
綾木のノットで塞がれた瞬間も、外れなくなった瞬間も覚えていないなんて!
ノットが膨らんだと言うのなら、中に注がれた精液の量もかなり多いはずだったのに。それで満たされるのを密かにずっと夢見ていたのに~!
感動の瞬間を逃してしまったかと思うと、黙っていた綾木にも勿論だが、わけもわからずアヘアヘしていた自分にも苛立ちが募る。
「番の契約は、言わば結婚式の指輪交換みたいなものなんだぞ。これではいつの間にか薬指に指輪があったのと同じではないか・・・」
「それじゃ駄目なのかよ」
「駄目、ということはないが」
情緒も何もあったもんじゃない。
・・・俺は結構夢見がちなんだぞ。
あっけらかんとしている綾木に、怒りを通り越して落胆してしまう。
「アレ? 茜、嬉しくねーの?」
明らかに落ち込んだ俺を見て、綾木が馬鹿げた質問をしてくる。
「嬉しくないわけないだろう。でも・・・」
しつこいようだが、人生の中で最も大切なものになったかもしれない瞬間を逃したことが悔やまれて仕方がない。それだけだ。
「俺は、死にそーなくらい嬉しい。だって」
「・・・ぁ」
伸ばした綾木の指先が唇に触れたと思えば、途端にぶわっ と甘い香りに包まれた感覚で、身震いするほどの快感が背中を這う。
甘い香りは綾木が発しているαフェロモンだ。こんなにも濃い匂いをさせている彼を俺は知らない。
「茜を囲んでたαの誰一人、もうお前をこんな風にできねーんだから」
「ぁ・・・、は・・・」
「俺だけの茜だ」
落胆していたはずの思考はすぐにも快感で上書きされる。
綾木の匂いだけで、全身を愛撫されているかのようだ。膝が抜けて立っていられないほど気持ちが良い。
体が床に崩れ落ちると、綾木は俺を抱えベッドまで運んでくれる。俺は自ら服を脱ぎながら綾木に触れていて欲しくて堪らず、さっき唇に触れた彼の指を求め咥内に含み舐る。
どうしたことだ。体が言うことをきかず暴走している。こんな事するつもりじゃないのに・・・
「んぅ・・・っ、ん、・・・んっ」
指を咥えながらベッドに座った綾木の片膝を跨ぎ、彼の太腿に自分の股間を擦りつけるように勝手に腰を揺らしてしまう。
発情期なのだからこうなって当然と言えば当然かもしれない。でも何かが違う。これまでのように欲望が湧き上がってくる感覚ではなく、強制的にスイッチをONにされたような感覚だ。
脇腹に添えられる綾木の片手にすら感じて、腰が捩れるほど気持ちが良い。
良すぎて辛いとさえ思う。
「や・・・ぁ、んんっ、・・・ふぁっ」
項が熱くなって、綾木が触れているところが全部性感帯になったようにどこかしこも感じてしまい声が止まらない。
落ち込んでいた俺は何処へ言ってしまったんだ。
つい数分前の自分と同じ人間と思えない。
だって、体も心もすっかり悦んでしまっている。綾木に触れてもらえることに。自分の全てが綾木のものになったことに。
まだ綾木は服も着たままだというのに、彼の太腿で素股をしただけなのに、情けない事に腰がガクガクと震え、少しでも動こうものなら浅くイクのを繰り返す自制が効かないだらしの無い自分の身体。
零れてくる喘ぎに閉じない口から唾液を垂らし、悦すぎて堪らず涙が滲む。
背中がベッドに沈み、覆い被さった綾木に痛いくらいに張り詰め尖らせた胸の先を撫でられ、摘んで潰される。
じん・・・と痛む先端を舌で転がされ、甘噛みされ吸われ、とめどなく屹立から腹上に零れ続ける生温い白濁。
乳首を弄られただけでこんな・・・アソコを触られたら、綾木のアソコを俺のココに突っ込まれたら、どうなってしまうんだ。やばい、すごくやばいぞ、これは。
脳内で語彙力が著しく低下する。
期待で既に蜜液を零す後ろはヒクヒクと収縮して、頭も体も壊れてしまいそうだ。
「ごめん。今ゴム持ってないから、茜だけ悦くなって」
きゅ と握られた前を上下に扱かれ、下腹部に溜まった熱は一気に迫り上がる。
「は・・・ッ、あ、あっ・・・ぁ」
勢いよく吐き出しても、後ろが物足りなさで切ないくらいにきゅんきゅんと疼く。
「・・・入れて。綾木ので、いっぱいにして欲しいよぉ」
「ダメだって今は。ラット化したら、茜を孕ませることで頭がいっぱいになる。こういう事はちゃんと話し合ってよく考えてから・・・」
「ずっと考えていた!綾木の子が欲しいって!だいたい、この噛み痕を付けた時に既にラット化していたんだろう!? 今更紳士ぶるな!」
「あの時は、・・・不可抗力ってやつで」
綾木は申し訳なさそうに視線を泳がせる。
不可抗力で番にするわ種付けするわで好き勝手しやがって。俺が覚えていない状況でやってしまうなんて狡をしておいて、今は出来ないなんて絶対に許さないぞ。
「なりふり構わず俺を求めて、めちゃくちゃにして孕ませればいい!俺は、・・・俺は綾木に、そうされたい」
俺がそう言うと、ふう、と息を吐いて顔を顰める綾木。
「あのなぁ、俺だってカッコつけたいワケ。プロポーズも無しに突然茜を番にしちゃって、本当は自分の間抜けさに苛立ってんの。なのにそんな可愛いこと言われたら我慢できねーだろ」
「だったら言え!今すぐしろ!」
荒い口調になりながらも綾木の言葉を期待する胸は高鳴り、まるで何かに直接心臓を揺さぶられているかのように激しく脈打つ。
じっと見つめると、コホン と咳払いをした綾木は覚悟を決めたのか、真顔で俺を見つめ返す。
言ってくれ綾木。俺と添い遂げたいと、αらしく自信を持って・・・
「茜に、捨てられないように努力します」
ん?
「茜だけを想って生きます」
んん?
「だから、俺を好きでいて」
んんん~?
なんだか、想像していたのと違う。
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