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第47話 違和感のその先 4
引きこもって読みふけっていた漫画や ひたすら観ていた映画なんかでは、プロポーズはもっとこう・・・少し強引なくらいがときめく展開のはずなのに。
弱い。弱いぞ綾木。
俺を見つめる両目はやはりポメラニアンのようだ。
「好きでいるに決まっている。ただ、あの、なんだその・・・もう少し違う言い方はなかったのか?」
決して不満とかでは無いのだが、物足りなさを感じる綾木のプロポーズ。
いや、決して不満などでは無いのだが!
うーんと唸る俺の両脚を持ち上げる綾木。脈絡も無く自分の恥部が視界に入る体勢にされ、俺は戸惑ってしまう。
「な、なんだ、どうした?」
もしかして、綾木のプロポーズに文句をつけたから怒ったのか?俺を辱めて仕返しでもしようって魂胆か?
「見えるか?後ろ。濡れてんの」
「えっ」
窄まりの全貌は見えないが、その周囲が濡れているのは見える。急に何なんだ。
「茜のココ、もう俺以外じゃ濡らせない」
ぴちゃ と、わざとらしく水音を立てて綾木の舌が入り口を撫でる。
「ひ・・・っ」
ぞわっと全身が総毛立つ。嫌だ、その行為は俺が苦手だと知っているはず。やはり、俺が素直に綾木の言葉に頷かないから臍を曲げてしまったに違いない。
「ああああ綾木っ、好きでいるってば!ずっと、一生!」
だからやめろ!
中途半端なでんぐり返りの体勢のまま体が震え続けるだけで、逃げてしまいたいのに力が入らない。
「他の奴をココに咥えようなんて想像する事すら許さねぇからな」
舌先で窄まりの中心部を押し拡げられ、不快だと思う気持ちを裏切る体はまた蜜を溢れさせる。
なぜ・・・。俺はこうされるのは苦手だったはずだ。それなのに
「んぁ・・・、あ、ぃ」
綾木にされることがただ気持ちが良くて、その快感に全てを委ねたくなる。気を抜いてしまうと うっかり「気持ちイイ」と口を滑らせてしまいそうなほど。
「俺は茜限定でめちゃくちゃ欲張りだから、体だけじゃなくて心も永遠に縛っときたい。その為ならなんだってする」
「ぅあ、あっ、そこでっ、しゃべるなぁっ」
「事業拡大すんのも茜を養えるようになりたいからだし、今まで無駄に金遣って来なかったのも茜といつか・・・ってどっかで思ってたからだし。体も心も生活も満たして、茜の人生に俺がいなきゃ足りないって思うようになればいい」
「は・・・」
「俺は茜がいなきゃ生きていけない。俺に死んで欲しくないなら、ずっとそばにいて好きでいて」
重い。重すぎるぞ綾木。
だけどそれは、想像していたどんな決めゼリフのプロポーズよりも俺を満たしてくれる。
番になったのだから、俺にはもう綾木しかいないのだ。もうお前に縋るしかないのは俺の方なのに、離れられないのは俺の方なのに。どうして綾木の方が必死なんだ。
「あやき」
両手を伸ばすと、応えるように綾木は抱きしめてくれる。
その腕は逞しくて暖かくて。けれど少しだけ震えていた。
「俺の番は綾木だけだ。だから・・・」
捨てないで
と言いかけたが、俺はやめた。
「だから大事にするがいい。綾木を幸せにできるのは俺だけだからな」
「ふっ、そうだな」
クスクスと笑う綾木の腕の震えよりも大きく震えている俺に気付いて可笑しかったのだろうか。
俺はΩとしてではなく、ただ『久遠 茜』としてお前を愛したい、お前に愛されたい。
生きてきた中で、これほどまでに緊張感というものを味わったのは初めてかもしれない。
いつかαに捨てられてしまうかもしれないとΩの俺は漠然と不安にもなり、それでも一緒にいたいと望む。
綾木とのこれからも、きっと些細なことで心が揺れて苦しくなって渇望し、満たされて幸福を感じ繰り返してゆくのだろう。
けれどそれは綾木がαで俺がΩだからという単純な理由ではない。
俺達がお互いに恋焦がれているという証なのだと思いたい。
運命よりも大切なものを選んだお前と俺だから、きっとそう思える。
「なあ、奥様? 初夜の続きをしませんか?」
綾木がおどけた口調で言う。
まったく。今更『初夜』などと白々しい。いい雰囲気だというのに空気の読めないヤツだ。しかし
「いいだろう、旦那様。俺の全てを綾木に捧げる。・・・捧げます」
たまにはお前のペースに合わせてやる。
それがパートナーの務めでもあるからな。
見つめ合い、どちらともなく笑いが零れる。
俺はお前が相手なら、くだらないことすら幸せに感じる。綾木も同じ気持ちだとわかるから。
「30歳まで性行為をしなければ、Ωはβになれる」
そんな弟の言葉を信じ拗らせていた俺は、αのフリをしていた頃から自分に惚れて これまた拗らせていた男と恋をした。
『これが本当の運命だ』なんて信じている俺は、やはりまだまだ拗らせているのかもしれない────────
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