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第54話 ☆ もうひとつの運命 4
楓の瞳に見つめられるだけで、体の奥が火照って熱くて堪らない。自分が自分じゃ無くなるみたいだ。
「お互い13人目だね。俺たち」
「え?・・・ああ」
なんで今そんなこと言うんだよ。もうそんなのどうでもいいと思いかけてたのに、いちいち蒸し返すなよ。
「『13』てさ、呪いの数字って言われてるくらい魔力を持ってる数なんだって」
「へー」
呪いなんて縁起でもない。突然何言い出すんだっつーの。
「藤莉の過去の相手をね、心ん中で俺はずーっと呪って来てたわけ」
「へー・・・」
やっぱりこいつ怖いわ。
「その呪いぜーんぶ、今から藤莉にぶつけるよ」
「はあ!? ちょ、なんでっ!?」
意味がわかんねぇ!!
「俺にしか触れない体になって俺の事しか考えられない脳ミソになる呪い、藤莉にかけてやる」
それって項噛む気満々ってこと!?
「ちょ・・・っ待って。まだ番とかにはっ」
「噛まないよ。藤さんと莉央さんの許可が下りるまでは。言ってるでしょ『呪い』だって」
こっちの台詞だっつーの。ウチみたいな一般家庭のΩが、楓んとこみたいな超がつく大金持ちのαと番うなんて畏れ多いわ。
身分不相応な相手が運命だなんて楓も気の毒だ。
下唇を緩く噛まれ引っ張られ、少しだけ口を開くと容赦なく舌が割り込んでくる。
舌先を押されて引っこめると下顎と上顎を舐め回されて、息苦しくて俺は顔を背ける。
「ほんとにキスしたこと無いんだ。藤莉ヘタクソだね」
「う、るせ」
キスに上手いも下手もあんのかよ。苦しいのに堪らなく気持ち良くて、どうせ何にも考えられなくなるだけじゃん。
「俺の真似してみて」
べー と舌を出す楓に倣って同じようにすると、出した舌の先をチロチロと舐められる。それに応えて自分の舌をゆるゆると動かす。
「かぁいい。大好き藤莉」
暫くそうしていると こそばゆくてジンジンして、触れている部分が溶け合っていくみたいだ。
次第に深くなる口付けに、舌だけじゃなく全身が溶けたみたいに力が入らなくなってしまう。
「んく・・・、ふ・・・ぅ」
ああもうダメだ。気持ち良すぎて頭の中までドロドロだ。
早く犯して欲しい後ろが疼きっぱなしで、ヒートに陥った体が楓の熱を求める。
「はぁ・・・っ、あ、かえでの、ほしいよぉ。いっぱい・・・」
理性も効かずに強請る自分は、なんて浅ましくて気色悪いんだ。こんな情けない姿の俺を見て、楓もきっと呆れてるよな。
恐る恐る薄ら開けた目で捕らえたのは、潤んだ大きな瞳を細めて息を荒げるケダモノ。
よかった。ちゃんと自分に欲情してくれている。
ホッとした途端に理性の糸がプツリと切れて、俺たちは無我夢中でお互いを求め貪り合った。
時間の概念なんてとっくに無くなって、窓の外は暗くてどうやら夜らしい。
痛いのを通り越して、下半身の感覚は無いも同然だ。それなのに楓はまだ足りないと言って、白濁を吐き出したコンドームを抜き取り新しいものを自身に被せる。
「うそ・・・、も、何回め・・・。あぅ、あ!あっ」
容赦なく奥を突かれて、麻痺しているはずの中がまたきゅうきゅうと疼いて快感が全身を駆け回って、仰け反った腰がビクビクと大きく震える。
「や・・・あっ、もぉやだっ、イキたくな・・・い」
おかしくなる。このままじゃ体も頭もバカになる。
「だめだよ。藤莉のナカ全然俺のかたちになってないでしょ?だって、まだこんなにキツいんだもん」
「おま・・・の、があっ ・・・っきぃ あっ あぁっ」
お前のが大きいだけって言いたいのに、それすらままならない。
いくら若いからって、元気有り余りすぎだろ!
ってか しつっこい!
「俺さ、ヒートでブッ飛んで訳わかんなくなった藤莉が意識トぶまで悦がらせてみたい、ってずっと思ってたんだよね」
ニヤッと笑っていかにも悪巧みをしている楓の顔が俺を見下ろす。
あんなに可愛らしい顔の裏に、こんなに歪んだ顔を隠し持っていたなんて知らなかった。
爽やかに見せかけておいて、ムッツリな上に粘着系男子だったとは・・・。完っ全に騙されていた気分だ!
「こんな俺じゃ、やっぱり藤莉に嫌われちゃうかな」
楓は腰を引き、悪どい表情を一瞬で しゅん としおれた表情に変える。
ああっ、もう!俺がその顔に弱いってわかってるくせに!
「そ・・・な、わけないだろ。いいよ、楓の好きにして」
「ふっ、マジで大好きだよ、とーり♡」
「ひぅっ! うっ、ぅあ・・・」
引いた腰を思いっきり打ち付けられて失神寸前の俺を力いっぱい抱き締める楓の腕は小刻みに震えている。
「勘違いしないでね。俺がこんなんなっちゃうの、本当に藤莉だけだから」
「・・・うん」
きっとこいつは後悔してる。今まで俺以外の誰かと関係を持ったことを。そのことで俺が不安になるかもしれないってわかってるんだ。
それは俺も同じだ。過去はどうやったって変えられない。
「かけたんだろ、呪い。13番目の。俺はもう楓じゃないとダメなんだろ?」
「うん。俺も藤莉じゃないとだめ」
だったら死ぬまで付き合ってやる。重すぎる楓の愛情を受け止められるのは、多分俺しかいないだろうから。
『運命』の相手は遺伝子レベルで惹かれ合う。どういう形であっても出逢い、お互いを繋げようとする。
家柄が違っても、望まない相手だとしても。
例えば、出逢っていたのに随分遠回りをしてしまった俺達は、いずれ惹かれ合うのが当然だったと言えるのだろうか。
正直よく分からないけれど、俺たちはもう離れられないんだ、と細胞単位で全てを享受している気がするんだ。確証なんて全く無いんだけど。
楓が俺にかけた呪いはいつか噛み跡になって、ずっと形になって残っていくだろう。
それがたぶん、楓と俺の『運命』だから。
──────END
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