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第53話 ☆ もうひとつの運命 3

経験があるイコール楓は童貞じゃないってこと。それってつまり、相手は男か女かわかんないけどセックスした事があるってこと。 「はあ・・・なんだよ、それ」 まだガキんちょのくせに。あいつ、あんな可愛い顔してて、どんな顔でそゆことするわけ? 考えただけでゾクッと胸が粟立つ。 と同時に、胃の中がモヤモヤしてきて苛立ってもくる。 なんで。俺達が運命だってわかってたなら、なんでその相手が俺じゃないんだよ。 なんで、俺はこんなにムカついてんだよ。 楓が小学生の頃からバカのひとつ覚えみたいに「とーりとーり」って懐いてきて、あいつは俺じゃないとダメなんだって漠然と思ってた。 番になるとかならないとかまでは考えてなかったけど、楓が大人になった時には抱かれてもいい、なんて思ったり・・・ 「バカみてぇ」 どっかでずっと思ってたんだ。楓は俺のものだって。それが運命とも気付かずに。 俺は なんて愚かなんだろう。 いつの間にか眠ってしまっていて、ハッと起き上がり時計を見ると午前3時。俺は、楓が出て行った寝室のドアを見つめる。物音ひとつ聞こえない。 あんな風に出て行ったんだから、きっと帰ってしまったんだろう。 汚した下着のままだったのが気持ち悪くてもう一度シャワーを浴びる事にした俺は寝室を出てバスルームへと向かう。 脱衣所の灯りをつけると 「ぎゃあっっ」 床に座り込んだ楓がそこにいて、あまりの驚きで思わず悲鳴を上げてしまう俺。 「かか帰ったんじゃっ!?」 「帰らないよ」 「だったら、ソファで寝るなりベッド戻って来るなりすればいいだろ」 「・・・追い掛けて来て欲しかったから」 「だからって、なんでここにいんだよ。・・・ふっ」 膨れっ面で膝を抱えているのが本当に子供みたいで、何だか笑えてくる。 「藤莉、全然追い掛けて来ないし、下着濡らしてたからここにいれば来てくれるかなって」 なんだそれ。可愛いすぎかよ。 「謝ってよ。俺に」 「は? なんで?」 「知ってるんだからね。藤莉、今まで12人とヤッたでしょ」 「はあ!? なんでお前、人数まで知ってんの!?」 怖っ! 「それだけ藤莉をずっと見てきたんだよ。悔しくて俺も同じだけヤッったけどね」 「つーか、お前だって他の奴とヤッてんじゃん。お互い様じゃん。なんで俺が謝んなきゃなんねぇの」 「藤莉が誰とも関係持たなきゃ俺もそうしてたよ。ヤキモチなんか妬かせる藤莉が悪いんだろ」 理不尽! でも、もし俺が楓の立場だったらどうしただろう。運命とわかっている相手がいたとして、自分はガキとしてしか扱ってもらえなくて。どうしようも無くなって他の誰かに縋っていたかもしれない。 「・・・ごめん」 「うん。俺もごめん」 俺の手をぎゅっと握って立ち上がる。 「下着の中、気持ち悪いよね」 「うん」 「シャワー浴びたら?」 「あ、うん」 「俺が洗ってもいい?」 「うん・・・・・・うん!?」 つい頷いてしまったけど、楓にそんなことさせられるわけが無い。 「いやあの、自分で」 「藤莉の裸、見たい。触りたい。・・・ガキの俺じゃやっぱりダメ?」 耳元で強請られて ぶるっ と体が震える。 こんな反応をしておいて、もうこいつを子供だなんて言えない。 「い、いけど・・・」 「それって、俺とセックスする覚悟がある、って思っていい?」 覚悟ってなんだよ。別に楓が嫌とかそういうんじゃないのに。 「いい、けど」 Tシャツの裾から滑り込んだ手に腰を撫でられて、膝が震え出す。楓に触れられると擽ったさすら快感でしかなくなる。 「んっ・・・ぅ」 やば・・・まだ腰しか触られてないのに声を漏らすなんて。淫乱とか思われたらやだな。それ以上にチョロいと思われるのも大人としていやだ。 そう思ってるのに、ビクビクと小刻みに跳ねる腰と漏れ出る声は我慢が出来なくて、楓の肩に両手を掛けてなんとか立っているだけが精一杯だ。 「かわいい。とーり」 くそ・・・、すっげぇ恥ずかしい。 でも楓が可愛いと言ってくれるから、少しだけ素直になれる気がする。 頬に掠める唇の温度が自分の体温よりも低くて、同じ温度になって欲しくて重ねると 「いいの?」 とトボけたことを言う。 「いいも何も、俺はお前の、なんだろ」 「そうだよ。なのに12人も藤莉に こうした奴らがいたんだと思うと、今更またムカついてきた」 「・・・してない」 「えっ」 「キスは、してない」 「嘘だ」 嘘じゃない。何となくだけど、誰ともしちゃいけない気がしてたから。 「嬉しい!俺も藤莉にしかしてないから!」 「してないってどういう意味だ?だったら今のがファーストキスだろ」 「あー・・・えっとぉ・・・ごめん。藤莉が寝た後、いつもこっそりしてた。あは♡」 照れくさそうに はにかむ楓。 かわいい・・・と思いたいけどやっぱり怖っ。 「でもせっかくだから、ちゃんとしたいな」 うん、と頷くと頬に手を添えられて顔を近付けられ、俺はぎゅっと目を閉じる。 柔らかい感触が触れて、さっきは少し冷たく感じた温度は俺と同じになっていて、それが嬉しくて楓に感じていた少しの恐怖も吹っ飛んで。 『これがキスなんだぁ』と冷静に思いながらも、妙な緊張感で体が強ばる。 ただ唇が触れてるだけなのに気持ち良くて溶けそうで、鼻の奥で んっ と声が詰まる。 唇が離れて名残惜しくて楓を見上げると 「ちゅーしただけでその顔すんの、ほんっと・・・」 と言って何だか怒った様子。 「どんな顔してればいいんだよ」 「いつもみたいな仏頂面でいてくんなきゃ。俺が暴走しても知らないからね!」 「何だそれ」 今 表情管理する余裕なんか無いんだけど。 Tシャツの裾を捲り上げて脱がされボトムスを下げられると、下着の上から後ろの割れ目をなぞられて 「乾いたのにまた濡れてる」 と言われ、恥ずかしいの上塗り。 「ち・・・、」 否定しようとして思い直し 「楓が触るから、こうなるんだろっ!」 運命だと認めて素直になりたかったけど、今の俺にはこう言い返すのが精一杯だ。 「うん。俺もおんなじ」 下腹部に ぐっ と押し付けられた昂りは、楓の可愛らしい顔からは想像もつかない可愛げの無さだ。 「だから、なんて顔してんのって。あーもぉ!これ以上我慢すんの無理!」 「だからどんな かお、わっ」 突然ふわっと体が浮いて、逆さになった楓の背中が視界に入る。 信じられない。こいつは本当にあの小さかった楓なのか?男の俺を軽々と持ち上げるなんて。俺のそばで、俺の知らない間に、こんなにも男らしくなっていたなんて。 「後で綺麗に洗ってあげるから、先にベッド行くね」 ベッド・・・ 楓と、本当に、セックスするんだ。 そう思うと、リミッターが外れたように心音がスピードを上げて大きくなる。 どうしよう。そういう行為は初めてじゃないのにドキドキしすぎて死にそうだ。 慎重にベッドの上に寝かされ、仰向けの俺を囲うように楓は四つん這いに覆い被さる。 背が伸びて体格が大きくなっただけじゃない。楓はもう立派な大人のαなんだ。

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