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第52話 ☆ もうひとつの運命 2

とりあえず一旦落ち着こう。いくら楓がαだからって、俺の初めての発情の相手だからって、こいつはまだまだガキだし、何よりもお世話になってる茜さんと塁さんの子供だし。 楓をそういう対象にするには罪悪感しか無い。・・・はず。 「藤莉が一緒に寝てくんなきゃ泊まる意味ない。俺、帰る」 楓がくるりと背を向ける。 「ちょっ、と待て!」 咄嗟に楓の腕を掴むと、歩き出そうとした楓は動きを止める。 「一緒に寝なくても、もう少しだけ・・・」 って何言ってんだ俺は。別に一人になりたくないわけじゃない。こいつが帰ったところで困る事なんて何も無い。引き止めてどうする。 手が勝手に楓の腕を掴んで離そうとしなくて、もう少し一緒にいたいと口が動いてしまった。 まただ。また無意識に楓に嫌われたくないって思ってしまってるんだ。 「じゃあ、いいって言ってよ」 「え?」 「一緒に寝ること」 「あー・・・」 拗ねて頬を膨らませそっぽを向いたままのあざといガキんちょ。そうすれば俺を思い通りにできると思ってるんだろ。 「・・・・・・わかった。いいよ」 「やった♡ 藤莉大好き♡」 俺の方へ向き直した楓は満面の笑み。 Ωの茜さん譲りの可愛らしい顔はこいつの武器だな。これだけで世の中の大半は自分の思い通りにしてしまえそうだ。 俺はチョロいんだよ。その大半の中の一人なんだよ。楓に関しては、こいつのご両親よりも甘いって自覚してんだ。 あーあ。俺も母さんに似れば もっとマシな人生送って今頃もう運命の相手と巡り逢えてたかもしんねーのに。 父親似の俺は、Ωにしては顔の造形が少し地味だ。だから自分に無い華やかさを持つ楓が羨ましい。羨ましいのと同じ分だけ可愛いと思う。 そうだよ。こんなに可愛らしいα他に見たこと無いだろ。俺が関係を持ってきたαはみんな、『ザ・男の色気』みたいなのがあったじゃん。 だから、楓は俺を襲ったりなんかしない・・・ って!そういう方向に考えるなって言ってんだろ俺ぇぇ!! 心の中でツッコミ疲れた俺は「はあ」と大きく息をつく。 「藤莉、疲れてんの? もうベッド行く?」 楓に肩を抱かれて、触れられた部分がじわっと熱くなって、頼むからもう勘違いしないでくれ、と俺は自分の体に言い聞かせる。 「うん。もう寝よう」 そうだ。その方がいい。抑制剤が効いているうちにさっさと眠ってしまおう。 眠ってしまおう。眠らなければ・・・ 思えば思うほど目が冴えてくる。 楓の体温を感じる背中が熱い。熱いのに鳥肌が立つようなゾワゾワとした感覚。 目を開ければ間近にある白い壁が圧迫感を与えてきて、楓と壁に挟まれている俺は身動きがとれず寝返りもうつことができない。 「ん・・・」 仰向けで寝ている楓の腕が少しだけ動いて、背中をさすられているような気になって、ぞわりと総毛立つ。 ベッドに入ってからすぐに反応してしまっていた下半身はジンジンと痛むほど屹立して、下着を濡らす後ろがヒクついてしまう。 触りたい・・・ 股間に伸ばしかけた手をぎゅっと握って、荒くなる呼吸を塞ぐように口元へ持っていく。 楓が隣で寝てるのに何やってんだ。気付かれたらどうするつもりだよ。我慢我慢! 抑えようとすればするほど熱を溜め込む体。 さっき風呂で抜いたのに、抑制剤だって多めに飲んだのに、どうして・・・ ・・・もう限界だ。トイレで・・・ ベッドを揺らさないように、音を立てないように上体を起こす。 ふと楓の顔を見下ろすと 「あ・・・っ」 ばちっと目が合い、思わずイッてしまいそうになった。 「まだっ、寝てなかった?それとも起こした?わり・・・」 「どこ行くの?」 普段より低く聞こえる楓の声。 「と、トイレに」 「俺も一緒に行こうかな」 「はあっ!? じゃ、じゃあ先に行ってこいよっ」 「なんで?」 「なんでって・・・」 それは、 「あーそっか。藤莉はケツも弄んなきゃダメだし、時間かかるもんね」 バレちゃってるよぉ!恥ずかし過ぎんだろぉ! 思っていた事をそのまま楓に言われて、あまりの恥ずかしさと気まずさにゴクッと唾を飲み込む俺。 「っ、しょうがないだろ!発情期以外はお前が毎日通って来るし、恋人作る隙も無い。お前より歳食ってても俺だってまだ若いんだからな!」 「だから風呂で抜くだけじゃ足んないの?」 ・・・風呂でオナってたのもバレてるし。最悪。 「お、俺はっ、お前みたいに可愛い顔してねぇけどっ、れっきとしたΩなの!性欲はβよりαより強いんだよ!なのにお前に見張られてるみたいで、外に遊びにも行けねーし、自分でやんのも気が引ける」 7つも歳下のガキに八つ当たりかよ、自分。 楓はただ遊びに来てるだけで、俺の行動を制限したことなんて無い。俺が勝手に囚われてるだけだ。 「なあ、お前のせいで俺がこのままずっと一人だったら、どうしてくれんの? 慰めてくれんの?」 違うだろ。こんな事 楓に言いたくない。言っちゃいけないのに。 傾いてしまったグラスから零れる水のように、言葉が止められない。 「俺が誰とも番えなかったら、責任取ってお前が番ってくれんの?」 何の責任だよ。楓には何の責任も無・・・ 目の前を横切った楓の手が、ドンッ と大きな音を立てて壁にぶつかる。 「・・・なにそれ。誰とも番えなかったら、ってなに?」 より一層低い声になる楓。 「藤莉の1番は、俺だろ?」 「は・・・?」 どういう意味 「俺たちは『運命』じゃん。なんで他の奴より後回しみたいな扱いなんだよ!」 「え、は? うんめい? は? お前と俺が?」 楓、何言ってんだよ。『運命の相手』は一目見た瞬間にわかるって言われてるんだぞ。もし俺達が運命ならとっくに・・・ 俺は思い出す。 楓に初めて出逢った時、発情して自分を抑えられなくなった時のこと。誰と関係を持っても、あの時以上の快感や感動を超えられなかったこと。 そして誰のことも好きになれたかったこと。 それはもしかしたら、無意識に俺の心と体が楓に独占されているから・・・? 「俺がガキだから、大人になるまでは藤莉が他の奴らで性欲処理すんのは仕方ないって思ってた。発情期以外は誰かに噛まれても番にはならないし。でもホントはめちゃくちゃ嫌だった、藤莉が誰かと一緒にいるの」 距離を詰めた楓の舌が項を這う。 「はっ、あ・・・っ」 ドクッと脈打つ屹立が下着の中で白濁を吐く。 嘘・・・。なんだこれ。気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそうだ。 「藤莉の甘い匂い、すっごく濃くなった。俺を誘ってるってことだよね?」 「違う、楓っ」 違うと口で言っても、体は震えて1ミリも動かせない。今までに感じたことの無いほど濃厚なαの匂いを楓が漂わせているせいだ。 それはきっと楓も同じように感じていて、こんなに身も心も溶けてしまいそうな俺が発しているだろうΩのフェロモンで理性を失いかけているようにも見える。 薄ら充血した瞳と大きく上下する肩、近付き唇を掠る熱い息遣い。 ここにいるのはガキなんかじゃない。獣みたいに獰猛で、淫魔のように妖艶な大人の男だ。 「だめ・・・、これいじょう、は」 近付かないで。 楓を求めて、自ら股を開くみっともない姿を晒したくない。お前を汚したくない。 だから楓が・・・、楓からしてほしいんだ。俺が拒否できないくらい強引に、言い訳できないほど滅茶苦茶にしてほしい。 「・・・・・・わかった」 え・・・ すっと体を引き くるりと背を向け、楓はベッドから立ち上がる。 「藤莉が俺を子供だって思うのもしょうがないよね。まだ高校生だし。 でもね、俺だってそれなりには経験あるし、藤莉が思ってるほど純粋じゃないんだよ」 そう言って寝室を出て行く。 「は・・・」 『経験ある』だって?

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