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第零章 遠い昔のお話

 初めて人を殺した。  顔にかかる生暖かい液体。それは鉄臭く、鏡に映るぼくの顔を赤黒く染めていた。  今まで見たことのない光景。  赤でまみれた光景。  どこを見ても、赤、赤、赤。  手のひらに収まっていた、元々は透明だった鈍器も、真っ赤に染まっている。  目の前には全裸の男が倒れている。異様な形に凹んだ頭からは、これでもかというほど血が流れ出ていた。  もう瞬きすらすることのない虚ろな目は、生前そうしていたように今もぼくを見つめ続ける。  悪くない。ぼくは悪くない。  悪いのはぼくを襲おうとしたこいつなんだ。  悪いのはぼくを傷つけようとしたこいつなんだ。  悪いひとは、お仕置きしなきゃいけない。  悪いひとは、やっつけなきゃいけない。  そう、教わったから。  だから、──殺してやったんだ。

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