3 / 505

幼き誓い 2

 雪がしんしんと降り続ける、二月の夜のことだった。  大正時代に祖父が建てた煉瓦造りの瀟洒な洋館が、僕の住まいだ。    戦禍を免れた今時都内では珍しい大きな屋敷に、両親と大勢の使用人、執事と共に住んでいる。    暖炉の火が揺らぐ二階の書庫で、僕は年若い執事の瑠衣《るい》に本を選んでもらっていた。天井まで届く程の大きな本棚には、まだ読んだことがない書物が山のように並んでいた。 「瑠衣、次の本を選んで」 「分かりました。少しお待ちください」  最近僕の家にやってきた瑠衣はまだ学校を卒業して間もないそうだが、とても優秀なので、お父様の側近として住み込みで働いている。そして仕事が終わり夜になると、こうやって僕の子守りまで引き受けてくれている。  美しく繊細な瑠衣は、まるで僕の兄のような存在で、とても信頼し慕っていた。 「柊一坊ちゃま、次はこちらはいかがでしょう。きっとお好きですよ」 「本当? 」    手渡されたのは、分厚い洋書だった。    僕の好きなの? パラバラと急いで頁を捲ると、明るい髪色の騎士が愛らしい姫をふんわりと抱き上げている挿絵の所で、ぴたりと手が止まった。  ふぅん……背景は薔薇園か。  僕の家にもあるアーチ型の大きな窓から薔薇の花びらがひらひらと吹き込んで舞っている。  騎士に横抱きにされた姫は、手に一輪のバラを持っていた。  わぁ白薔薇の騎士か!   この人……カッコいいな。  ふぅ……  憧れに似た、溜息が漏れてしまった。。  うっとりした気持ちで、僕が気に入る本を選んでくれた事に対して礼を言った。 「瑠衣、これ、とても気に入ったよ」  横に立っている瑠衣を満面の笑みで見上げると、瑠衣は少し困っているようで気になった。 「何?」 「いえ、本当はこういう本はもうやめるようにと旦那さまに申し付けられていたのですよ」 「え……何で?」 「もっと男の子らしいものを読むようにと、ご指示が」 「……それは……分かっているよ。でも……」 「くすっ、大丈夫ですよ。心から好きなものを素直な気持ちで愛することは、とても大事です」  そう言い放つ瑠衣の横顔は、どこか凛としてカッコよかった。  あ……もしかして瑠衣にも、そんな人がいるのかな。

ともだちにシェアしよう!