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【最終話】解けない魔法 2
「この指輪……本物ですよね……えっ……でも、どうして?」
「俺が昨日、君の指に口づけしたのは覚えている?」
「もちろんです」
柊一は興奮した面持ちで、コクンと頷いた。
そんなに驚いて、可愛いな。
「その時、君は何か願い事をしなかったか」
「あっ……しました」
「なんて?」
「……それは秘密です。でも……今、その夢が叶いました」
柊一は嬉しそうに左手の薬指のプラチナの指輪を見つめ、そっと右手の指先で触れた。
「これって、あのお店で見ていた物です。とても素敵なデザインで素敵だと思っていたので……驚きました」
「どこが気に入った?」
「はい、あの、ここに小さなダイヤが3つ並んでいて、海里さんと僕と雪也みたいだなと」
「嬉しいよ……俺も仲間に入れてもらえて」
「海里さん……これからはずっと一緒ですね」
そこまで話して、突然、柊一はハッとした表情を浮かべた。
「海里さん、大変です! 今から出かけましょう」
「どうした? そんなに慌てて」
「だって指輪、僕だけでは意味がありません。海里さんの分をすぐに購入したいです」
「あぁそうだね。君からの申し出、嬉しいよ。でも俺も待ちきれなくて、実はお願いしたんだ」
「えっ海里さんも……願い事を?」
はぁもう駄目だ。
柊一が可愛すぎて悶えてしまう。
ポーカーフェイスを押し通すのも大変だ。
「きっともう届いているだろう」
「どこにですか」
「それは、そうだな。きっと君の大切な場所に」
「あっ、もしかして」
柊一が慌てて机に置いてあった秘密箱を持って来た。
「もしかして、ここに届いているのかもしれません」
「さぁどうだろう? 開けてみて」
「はい!」
寄せ木細工の秘密箱は、なかなか凝った作りで開けるのが大変だ。
柊一は、何度も間違えてしまった。
いつもの冷静さを失っているな。
でもそれも俺のせいだと思うと、嬉しくなる。
「あっ、ありました!」
「嬉しいよ。これで俺の夢も叶ったよ」
「何だか信じられません。『まるでおとぎ話の世界』に迷い込んだみたいです」
「さぁ、こちらにおいで」
もう一度朝日が降り注ぐ窓辺に、君を誘った。
「迷い込んだのではない。これが今日からの君の日常になる」
「海里さん……」
俺が左手を差し出すと、柊一は緊張した面持ちで手を震わせながら、慎重に指輪をはめてくれた。
「Stay with me. You’re my prince!」
「I’m yours.」
俺と一緒にいてくれ、君は俺のprinceだ。
僕はあなたのものです。
飾らない言葉を交わした。
二人の指には……永遠に解けない魔法が、かけられたのだ。
ふたりはお互いに歩み寄り、唇をそっと重ねる。
永遠の愛を約束する。
I promise love of the eternity.
****
清らかな朝日に照らされた窓辺。
僕は隣の部屋で交わされる会話に、静かに耳を傾けていた。
海里先生と兄さまの指輪の交換の儀式が、無事に済んだようだ。
これで兄さまは、海里先生と永遠に深く繋がっていく。
「兄さま、良かったですね」
胸の奥から、じんわりとした熱い感情が込み上げてくる。
自然と涙が、頬を伝う。
兄さまが幸せになれることへの感謝の気持ちで一杯だ。
お父様、お母様、どうか温かく見守って下さい。
きっとこれからは毎晩のように、二人の部屋から甘い子守唄が届くだろう。
愛を重ね、奏でる音が……
僕はもう少し体力をつけたら、海里先生の元で、心臓の手術を受けます。
そして大人になります。
無事に手術を終え退院したら、秘密の庭園でふたりだけの結婚式を改めてしてもらいたいです。
海里先生と兄さまに、強請ってもいいですか。
そこに僕は必ず参列したい。
それを目標に、手術を頑張ります。
そして僕はずっと、海里先生と兄さまが歩む『おとぎ話のような人生』を見守ります。
兄さま、結婚おめでとうございます。
海里先生と末永くお幸せに!
A story closes with a happy ending.
『まるでおとぎ話 ~long version~』 完結
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