250 / 505
庭師テツの番外編 鎮守の森 6
そのまま記憶が、飛んでしまった。
次に目を覚ますと、おれは自分の部屋ではない場所にいた。
「ここは……どこだ?」
同じように和室の布団に寝てはいるが、いつものように部屋に充満しているテツさんの匂いがしなかった。
いや違う! 部屋に漂っていないだけで、もっと強烈なテツさんの匂いを近くに感じる。
「えっ!!」
生身の人肌が間近に……驚いて飛び起きてしまった。
「なっ!」
あろうことか……!
おれはテツさんの布団の中で、彼に包まれるように眠っていた。
「あぁ……桂人、起きたのか」
「なっなんでおれ……ここに? どうしてテツさんと同じ布団にいるんですか! お、おれに何を?」
キッと睨みつけてしまった。
着ていた浴衣の袷をきつく握りしめて……
「ははっお前、昨日俺にしがみついて離れなかったぞ。だから仕方なく、ここに連れて来た」
「馬鹿な……このおれが、そんな事……するはずない!」
テツさんは呑気な様子で大欠伸をしながら、髪を掻きむしった。
「なんだ、何も覚えていないのか」
「覚えていません! 何も!」
「つまんないな。ちょっとは可愛いと思えたのに」
「……可愛いですって? 変なこと言わないで下さい」
慌てて飛び起きると、つま先がズキっと傷んで、畳につんのめってしまった。
「痛っ……!」
「大丈夫か。指、思ったより深く切れていたな。あとで医者に行って診てもらおう」
「こんなの、かすり傷だっ」
やっと思い出した。
昨夜もテツさんの匂いのせいで夜中に目覚めてしまい、水を飲もうと炊事場に行ったんだ。そこでテツさんと出くわして。
あ……まずい。
その後に起きた事を思い出し、急に気持ち悪くなってしまった。
記憶ですら、このざまだ。本当におれはアレに弱い。
「うっ──うぐっ」
「あ! おい、ここで吐くな」
テツさんが慌てて洗面器を差し出し、俺の手をグイっと握って持たせてくれた。
「離せっ!」
「ここに吐いていいぞ」
こんな醜態……見せたくない。なのに足が痛んで……しゃがみ込んでしまい、結局その場で嘔吐してしまった。
不覚だ。
「う、うう……」
「そうだ、遠慮すんな。全部吐いてスッキリしちまえ」
大きくてあたたかな手で、背中をゆっくり擦ってもらう。
なんだよ。この人……
まるでおれが樹の幹となり、彼に丹念に世話にされているようじゃないか!
こんなの変だ……
こんな優しい手は知らない。
やめてくれ!
「よし、これは俺が処理してくるから、ここで少し待ってろ。足の消毒もしよう」
テツさんが洗面器を持って出ていく姿を、黙って見つめるしかなかった。
こんな弱味……見せてどうする?
おれは馬鹿だ。
未だに血の色が怖いなんて。
こんなことじゃ成し遂げられない。
テツさんが出て行った部屋で膝を抱えて蹲っていると、窓をノックされた。
背の高い人影が、くもりガラスに映った。
一体、誰だ? こんな朝から……
「おいっ、テツ、開けろよ」
テツさんの知り合い?
どうしたらいい? この状況!
昨日の相談の続き(不要な方はスルーで)
****
昨日はいろいろと相談に乗っていただき、ありがとうございます。
ペコメでも温かいコメントを下さり嬉しかったです。
皆様……お優しくて励みになりました。
まだTwitterアンケート結果が出そろっていないので(1・2が接戦なので)方針を決めかねています。とりあえず今日はこの流れに沿って進めてみますね。
Twitterアンケートはこちらです
@seahope10
https://twitter.com/seahope10/status/1297002255296499714?s=20
いつもあとがきで五月蠅くしてしまって、すみません。
ともだちにシェアしよう!