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庭師テツの番外編 鎮守の森 10

「海里さんって、本当に綺麗ですね」  抱きしめて口づけを交わした柊一がうっとりとした様子で、俺を見上げている。 「何がだ?」 「海里さんの髪の色……朝日を浴びてとても綺麗です。瞳は庭の碧を映しとったような色で……目が離せないのです」  かつて容姿を誉められるのは、好きではなかった。  日本では混血の異端児という白い眼で見られていた。英国留学時は英国人だと勘違いされ、国籍が判明するとあからさまにがっかりされたりもした。  自暴自棄になって、言い寄って来る相手を見境なく受け入れ、遊んでしまった時期もある。  だが柊一の口から出る『綺麗……』という言葉は、趣が深い。心の内面まで見透かされている気持ちになる。 「朝からテツさんの忘れ物を届けてあげるなんて、海里さんは本当にお優しい人ですね」 「そうか。なら褒美をくれないか」  優しい彼に強請ると、柊一は背伸びして、俺の頬にそっと口づけしてくれた。  秋晴れの中、煌めく朝日を浴び、鳥のさえずりを聞きながら、俺達は生まれたての新しい1日を受け入れる。 「今日も海里さんにとって、よい1日になりますように」  俺と柊一が紡ぐ『おとぎ話の世界』は、今日も順風満帆だ。 ****  自室に駆け込み、ドアにもたれて深く深く……息を吐いた。 (はぁはぁ……)  気が付けば……全速力で走った後のように肩で息をしていた。  躰がゾクゾクし、小刻みに震えている。  あの人が、雄一郎……か。  あなたはおれを見たことがなくとも……おれは知っていますよ。  あの社で、ずっと夢現に見ていましたから。  足の腱が突然ズキっと傷んだ。  もう傷む事もなかったのに……古傷が疼くのは何故か。 「つっ……」  思い出すな! もう忘れろ。 『お前が死に損ないの桂人か……』  あの言葉のせいだ。こんなにも気が高ぶるのは!  言われなくとも分かっている。  おれは15歳の時、あの社で死ぬ運命だった。  今、生かされているのは、黄泉の国の入り口で、長く彷徨っていた魂と触れ合ったからだ。  はたして……もっと生きたいと願ったのはおれだったのか。  それとも、もう逝きたいと願ったのに、生かされてしまったのが、おれなのか。  今となっては……それすらも分からない。  時が満ちるまで、運命がおれを呼び出すまで、社の守り人として社に住み着いた。  やることもなかったので、社を囲む庭の手入れに専念していた。  唯一の話し相手は、鎮守の森が守る村落の……年若い青年だった。  彼がいつもお供え物を社に置いてくれるので、いつの間にか話すようになった。  温かく純朴な人だった。  親にすら見捨てられたおれを……唯一怖がらない人だった。 「桂人、大丈夫か」  ドアの向こうで声がしたので、驚いた。  一瞬、故郷の青年を思い出して、胸が苦しくなってしまった。 「開けるぞ」  テツさんは強引な人だ。  勝手に部屋に入って来るし、おれを驚かせるし、怪我までさせる! 「桂人、お前……泣いていたのか」  故郷の青年と同じ、陽だまりの匂いが立ち込める。       あとがき(不要な方はスルー) **** 志生帆海です。いつも読んで下さりリアクションありがとうございます! 本日アトリエブログ更新しました。 こちらのお話のスピンオフ『ランドマーク』の挿絵についてです。 スピンオフですが、単独でも読めます! 『ランドマーク~そこに君がいてくれるから~』https://fujossy.jp/books/18238  

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