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峠の先 3

 冬郷家でクリスマスパーティーを、することになった。  一体いつぶりだろう?   楽しみだ……料理や飾りつけはどうしようかな。  僕は暖炉の前のラグに座り、パチパチと燃える薪の音と橙色の炎の向こうに、ぼんやりと昔を懐かしんでいた。 「暖かいな……暖炉には……団欒が似合う」    お父様とお母様がいらした時は、毎年のようにクリスマスパーティーをしていた。冬場は特に家に籠もりきりになる雪也を励まそうと、お母様が腕によりをかけたご馳走を並べて……チキンもケーキもとても美味しかった。  食後は家族で、今の僕のように暖炉の前で思い思いに寛いだものだ。  お母様とお父様はいつも仲が宜しくて、ふたりでさり気なく肩を寄せ合って語らっていた。僕は中学生になってもまだ幼さの残る雪也に、プレゼントの本を読んであげていた。  そうだ……あの日は、お母さまが突然部屋の端に直立不動で控えていた瑠衣を呼んだのだ。 『瑠衣も、こちらにいらっしゃい』 『はい』 『あなたにもクリスマスプレゼントがあるのよ』 『え……何でしょうか』 『これよ、開けてみて』   お母様が瑠衣に渡したのは、白い封筒だった。中を確かめた瑠衣が目を見開いていた。手がカタカタと……驚きと緊張で震えていたのを思い出す。    中身は英国への往復の航空券で、今考えれば瑠衣にとって最高の贈り物だった。ほどなく、アーサーさんに会うために瑠衣は旅立った。   優しく綺麗で、優秀な執事の瑠衣が、僕たち兄弟は大好きだった。だから彼にお母様が贈り物をして下さったのが嬉しくて、雪也と抱き合って喜んだものだ。  はたして僕はお母様のように、相手の心に寄り添った贈り物を出来るだろうか。心配だな……。  テツさんは何がお好きかな。桂人さんとお揃いのものが喜びそうだ。二人には、冬用の暖かい帽子はどうだろう? 庭仕事は真冬は大変寒そうだから。  テツさんが栗色なら、桂人さんはミルクティー色かな。  よし、楽しくなってきた。  雪也には入院中に読めるように沢山の本を贈る予定だ。もうリストアップしている。僕から雪也への贈り物は、昔からいつも本だからね。  問題は海里さんだ、何でも持っているし……困ったな。 「柊一、そこにいたのか。暖炉がそんなに気に入った?」 「あ……海里さん、ま、またそんなお姿で、風邪を引いてしまいますよ」  海里さんは暑がりなのかな? 真冬なのにお風呂上がりにはバスローブのみでウロウロされるので……正直、目のやり場に困ってしまう。 「あ、あの……寒くないのですか」 「全然!」 「そうだ、あの……海里さんはクリスマスに何か欲しいものがありますか」 「あるよ」 「な、なんですか」 「もちろん、柊一だ」  あまりにストレートに名指しされて、ポンッと頬が染まった。  だ、暖炉の熱のせい……だ。きっと。 「あぁ、俺はこんな性格だったか」  何故だか海里さんも面映ゆい表情を浮かべていた。明るい色の柔らかな髪をふっと手櫛で掻上げる仕草は官能的だ。  僕のドキドキ……静まれ! 「あ、あの……どういう性格だったのですか」 「う……それを聞く?」 「えっと……あまり聞かなくてもいいです」  海里さんの過去はきっと女性にモテモテで、プレイボーイだったに違いない。僕なんて、なんの経験もないから……恥ずかしいな。 「あ……拗ねないでくれ。もうこの先は君だけなのだから」 「実は、クリスマスプレゼントを考えていたのです」 「なるほど、では柊一は何が欲しい」  そう聞かると……僕も同じ答えしか浮かばなかった。 「……海里さんが欲しいです」 「嬉しいよ、熱烈で。なぁ、少しフライングしても?」 「え……」  真っ白なラグに突然仰向けに押し倒されて、びっくりした!  じわりと汗が出る。  海里さんのバスローブ、上半身がはだけて……とても雄々しく艶めいている! 「柊一と俺は……残す物も、産む者もないシンプルな関係だろう?」 「はい……そうです」 「君は高価な贈りものや派手な社交界などは興味はないよな」 「はい、全く」 「俺もだ、もうそういうのはいらない。ただ柊一がいつも俺の腕の中でこんな可愛い表情をしてくれればいい。ずっと和やかな時間を積み重ねられればいい」  僕も多くは望みません。  あなたがいれば……もうそれだけで、涙が零れる程幸せなのですよ。  その気持ちを込めて瞼をそっと閉じると、すぐに唇に温もりが届いた。  宝物のように僕に触れてくださる人……この人と生きていく。  あぁ……ここは、まるで雲の上だ。 ラグに埋もれる僕の身体を、海里さんの指が辿っていく。 「あ……っ、駄目です。ベッドに……」 「大丈夫、雪也くんはもう寝た。テツたちは離れに戻った」 「よ、用意周到では?」 「ははっ、こんな俺はイヤか」 「いやでは……ありません」  暖炉の前の白いラグ。  ここが……今宵は、僕たちの愛の巣になる――  

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