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峠の先 4

「テツさん、おれ……暖炉って初めて見た」 「あぁ、暖かかったな」 「囲炉裏とも似ているが、少し違ったよ」 離れに戻ってくると、桂人が俺にすり寄ってきた。彼が猫みたいに甘えてくるのは、心が寂しい時なのを知っている 「囲炉裏なら、桂人にも経験があるだろう?」 「あぁ……社にはなかったが、家にはあったよ」    珍しく桂人が故郷の話をし出したので、耳を傾けて静かに聞いた。 「どうした? 懐かしいのか」 「囲炉裏を囲んで、皆で団欒したんだ。ばばちゃがいた頃は良かったな。父さんも母さんも、弟たち、妹もみんな優しくて和やかだった」 「お前のばばちゃは偉大だったな」 「年老いても……美しい人だったよ。若い頃はきっと、とても綺麗だったと思う」 「そうか……」 「会いたいな、藁の編み物が得意で、おれに藁靴を編んでくれたんだ」    桂人の頭を、そっと俺の膝にのせてやった。 「テツさんは体温が高いんだな。ふっ……囲炉裏端にいるみたいだ」 「桂人にはクリスマスに暖炉を贈ってやるよ。ほら、この離れにもあるんだ。煙突掃除すれば使えるようになるさ」 「……嬉しいよ。でも……おれ、ここも好きだ」  桂人が頬をすり寄せてくるので、猫の毛並みを整えるように背中を優しく撫でてやった。  もう12月下旬か……故郷は雪に埋もれている頃だ。  冬の雪はやわらかいので人が踏み固めた後を歩くのは楽だが、一夜を過ごした旅人が宿を出て歩こうとすると、道は雪に埋まり方角を失うものだ。だから里の人が雪踏み、道踏みをしてやったものだ。  俺は桂人がこの先進む道を、少しでも平坦に歩きやすくしてやりたい。  お前はずっと一人で、凍える道を裸足で歩いてきた男だから。 「寒くないか」 「なぁ……テツさん、クリスマスパーティーってなんだ?」 「俺もよく分からんが、もみの木を飾ってご馳走を食べて、贈り物を交換するらしい」 「じゃあ、柊一さんたちに何か贈りたい」 「そうだな。何がいいかな」  桂人の目が、じわりと潤んだように感じた。 「どうした?」 「故郷に残した妹を、思い出してしまった。あの子だけだ。ばばちゃんがいなくなってからも俺に優しくしてくれたのは。俺が優しくしてやると、同じだけ返してくれるんだ。あの日も……黄色い秋桜を俺に渡そうと駆け寄って、転んで……うっ……」  桂人は泣き顔を見られるのが恥ずかしいのか、腕で目元を覆ってしまった。  引き締まった淡い色の唇にそそられる。 「きっと、いつか会えるさ」 「そうだな、会いたい」     ****  その晩、パチパチと薪の燃える音を聞きながら、柊一を抱いた。  白いラグは、柊一と俺の汗を吸い取って、しっとりと湿っていた。  暖炉の熱を吸い取ったように柊一の身体も朱に染まり、歓喜に震えていた。 「可愛いね」 「あぁ、もう……もう出したいです」  ラグの上で裸に剥いた柊一を四つん這いの乱れた姿にして、背後から貫いた。  けっして傷つけないように鈴を鳴らすように優しく腰を揺らすと、柊一も、か弱く啼く。 「ん……んっ」 「大丈夫か」 「ん……出してもいいですか」 「あぁ」  じれったいほどゆっくり奥を突いてやると、柊一が「ううぅ……」と小さく呻いて精を放った。こんな場面でも、君は本当に清らかだ。    こんなに優しい気持ちで、相手を想いながら人と交わるのは、柊一が初めてだ。以前の俺だったら絶対にこんな緩やかな情交はしなかった。  柊一だから……君だから、俺はどこまでも優しくなれる。 「か、海里さんも出して下さい」 「君に負担をかけるよ」 「大丈夫です。あなたを受け止めたいです」  仰向けにひっくり返してやると、黒曜石のような瞳がしっとりと濡れていた。 「いいのか。きつくないか……」 「はい……フライングどころではなくなりましたが、とても気持ちが良いのです」  育ちのいい柊一は、言葉の端々まで……素直で純粋だ。    現実離れした考えかもしれないが、君を俺の作ったスノードームの中に永遠に閉じ込めたくなってしまう。    少しだけ動きを早めていく。坂道を下るくらいの速度で、柊一を追い詰めていくと、再び彼のものも兆していくのが見えた。 「いいね、もっと感じて」  平らな胸や可愛い腰のライン、首筋、ありとあらゆるところにキスを落とす。  ゆっくり……ゆったり、お互いに愛を伝えながら、長い時間をかけて肌を重ねていく。  柊一も俺に、そっと触れてくれる。 「海里さん……とても素敵です」    こんな風に繋がる時間がお互いに大好きだ。パートナーからの愛情を深く感じられ精神的にも満たされるので、深い快感と満足感が得られるから。  これが俺たちの過ごし方だ。    きっと歳を重ねても、ずっと君にこんな風に触れ合っているだろう。  

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