369 / 505
峠の先 4
「テツさん、おれ……暖炉って初めて見た」
「あぁ、暖かかったな」
「囲炉裏とも似ているが、少し違ったよ」
離れに戻ってくると、桂人が俺にすり寄ってきた。彼が猫みたいに甘えてくるのは、心が寂しい時なのを知っている
「囲炉裏なら、桂人にも経験があるだろう?」
「あぁ……社にはなかったが、家にはあったよ」
珍しく桂人が故郷の話をし出したので、耳を傾けて静かに聞いた。
「どうした? 懐かしいのか」
「囲炉裏を囲んで、皆で団欒したんだ。ばばちゃがいた頃は良かったな。父さんも母さんも、弟たち、妹もみんな優しくて和やかだった」
「お前のばばちゃは偉大だったな」
「年老いても……美しい人だったよ。若い頃はきっと、とても綺麗だったと思う」
「そうか……」
「会いたいな、藁の編み物が得意で、おれに藁靴を編んでくれたんだ」
桂人の頭を、そっと俺の膝にのせてやった。
「テツさんは体温が高いんだな。ふっ……囲炉裏端にいるみたいだ」
「桂人にはクリスマスに暖炉を贈ってやるよ。ほら、この離れにもあるんだ。煙突掃除すれば使えるようになるさ」
「……嬉しいよ。でも……おれ、ここも好きだ」
桂人が頬をすり寄せてくるので、猫の毛並みを整えるように背中を優しく撫でてやった。
もう12月下旬か……故郷は雪に埋もれている頃だ。
冬の雪はやわらかいので人が踏み固めた後を歩くのは楽だが、一夜を過ごした旅人が宿を出て歩こうとすると、道は雪に埋まり方角を失うものだ。だから里の人が雪踏み、道踏みをしてやったものだ。
俺は桂人がこの先進む道を、少しでも平坦に歩きやすくしてやりたい。
お前はずっと一人で、凍える道を裸足で歩いてきた男だから。
「寒くないか」
「なぁ……テツさん、クリスマスパーティーってなんだ?」
「俺もよく分からんが、もみの木を飾ってご馳走を食べて、贈り物を交換するらしい」
「じゃあ、柊一さんたちに何か贈りたい」
「そうだな。何がいいかな」
桂人の目が、じわりと潤んだように感じた。
「どうした?」
「故郷に残した妹を、思い出してしまった。あの子だけだ。ばばちゃんがいなくなってからも俺に優しくしてくれたのは。俺が優しくしてやると、同じだけ返してくれるんだ。あの日も……黄色い秋桜を俺に渡そうと駆け寄って、転んで……うっ……」
桂人は泣き顔を見られるのが恥ずかしいのか、腕で目元を覆ってしまった。
引き締まった淡い色の唇にそそられる。
「きっと、いつか会えるさ」
「そうだな、会いたい」
****
その晩、パチパチと薪の燃える音を聞きながら、柊一を抱いた。
白いラグは、柊一と俺の汗を吸い取って、しっとりと湿っていた。
暖炉の熱を吸い取ったように柊一の身体も朱に染まり、歓喜に震えていた。
「可愛いね」
「あぁ、もう……もう出したいです」
ラグの上で裸に剥いた柊一を四つん這いの乱れた姿にして、背後から貫いた。
けっして傷つけないように鈴を鳴らすように優しく腰を揺らすと、柊一も、か弱く啼く。
「ん……んっ」
「大丈夫か」
「ん……出してもいいですか」
「あぁ」
じれったいほどゆっくり奥を突いてやると、柊一が「ううぅ……」と小さく呻いて精を放った。こんな場面でも、君は本当に清らかだ。
こんなに優しい気持ちで、相手を想いながら人と交わるのは、柊一が初めてだ。以前の俺だったら絶対にこんな緩やかな情交はしなかった。
柊一だから……君だから、俺はどこまでも優しくなれる。
「か、海里さんも出して下さい」
「君に負担をかけるよ」
「大丈夫です。あなたを受け止めたいです」
仰向けにひっくり返してやると、黒曜石のような瞳がしっとりと濡れていた。
「いいのか。きつくないか……」
「はい……フライングどころではなくなりましたが、とても気持ちが良いのです」
育ちのいい柊一は、言葉の端々まで……素直で純粋だ。
現実離れした考えかもしれないが、君を俺の作ったスノードームの中に永遠に閉じ込めたくなってしまう。
少しだけ動きを早めていく。坂道を下るくらいの速度で、柊一を追い詰めていくと、再び彼のものも兆していくのが見えた。
「いいね、もっと感じて」
平らな胸や可愛い腰のライン、首筋、ありとあらゆるところにキスを落とす。
ゆっくり……ゆったり、お互いに愛を伝えながら、長い時間をかけて肌を重ねていく。
柊一も俺に、そっと触れてくれる。
「海里さん……とても素敵です」
こんな風に繋がる時間がお互いに大好きだ。パートナーからの愛情を深く感じられ精神的にも満たされるので、深い快感と満足感が得られるから。
これが俺たちの過ごし方だ。
きっと歳を重ねても、ずっと君にこんな風に触れ合っているだろう。
ともだちにシェアしよう!