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羽ばたく力を 22
「アーサーの瞳、綺麗……海……越えて来てくれて……ありがとう」
俺に深く抱かれ、疲れ果て……静かに瞼を閉じていく瑠衣を腕の中に閉じ込めた。
俺と二人きりの瑠衣は本当に可愛い。そんな君と夜になればこうやって抱き合えるのが楽しみで、俺も仕事を頑張っている。
瑠衣が完全に眠りに落ちてしまったので、俺はその躰を綺麗に処理してやった。
「瑠衣、ちゃんとパジャマを着ような」
「ん……もう……眠りたい」
「おいおい、海里じゃあるまいし……ちゃんと着ないと。いいよ……俺が全部してあげるから」
実は今日、仕事の合間に銀座の文具店に寄った。
そこで雪也くんへ渡すご褒美を見つけたのだ。
瑠璃色の色鉛筆が、一際輝いて見えた。瑠衣の『瑠』は『瑠璃色』から来ているのだろうか。難しい漢字の意味を店員に聞くと教えてもらった。
『|Ultramarine Blue《ウルトラマリンブルー》』
とても力強い言葉だ。
そうだ……俺たちは海を越えて出逢った。そして別れ……何度も何度も英国と日本を行き来し、愛を貫いた。
「ふっ、やっぱり似合うな。君には薔薇色が似合うよ」
淡い薔薇色……シルクのパジャマを着せてやると、なんとも可憐で参った。
あぁ節操ないが……もう一度抱きたくなってしまったよ。
そういえば……雪也くんが描いた瑠衣は、執事服を着て兎の耳だったな。成程……次は兎のカチューシャでも買ってくるか。
瑠衣を思うと柔らかい気持ちになる、豊かな気持ちになる。
スパイを買って出た(バレバレだったが)雪也くんのスケッチブックには、『瑠衣の手もGod’s hands』と書いてあったのを思い出し、瑠衣の手を取ってみた。
俺の指を絡めていくと、瑠衣がふっと目を覚ました。
「あの……何をしているの?」
「いや……雪也くんのことだが……海里の手が……手術して救い、瑠衣の手が看病して癒やすんだな。二人のGod’s handsの連携プレーは見事だ」
絡み合わせた手の甲にキスをひとつ落とすと、瑠衣は嬉しそうに口元を綻ばせた。
「僕の手も……役に立つんだね。嬉しいよ」
「当たり前だ。何よりも、俺をこんなに高めてくれる」
一番の恩恵は俺だよな?
瑠衣の手を下腹部に導いて再び兆しているものに触れてもらう。
瑠衣はふっと甘やかに微笑み、そのまま優しく揉みほぐしてくれた。
「こう?」
「ん……クルな」
「あ……どんどん、硬くなってくるね」
「君……とても上手だ」
「God’s handsだからね、くすっ」
まんざらでもない様子に、やっぱり可愛さが募って止まらない。
「もう一度したい」
「ん……いいよ」
寛大なお許しを得て、俺は瑠衣のパジャマのズボンに手をかけ、スッと下げた。
****
「海里さん! お帰りなさい」
「柊一、もういいのかい?」
「はい。海里先生のお薬がよく効きました」
「よかったよ」
柊一は俺よりずっと背も低く、華奢だ。よく一人で何もかも背負って頑張ってきたと感心してしまうほど、庇護欲をかき立てられる存在だ。
まぁそれは私の勝手な思い込みで……実際の柊一は冷静な判断力を持ち立派に日中は冬郷家の当主として活躍しているのだが。
「あの、今日は……雪也の様子はどうでしたか」
「あぁ、日に日に明るくなってきている。瑠衣とアーサーが場を和ませてくれているしな」
「良かった。僕も……瑠衣が来てくれた時、本当に安堵しました。瑠衣の手は母の手みたいなんです。あ……この表現は男性の瑠衣に失礼かな?」
「いや、瑠衣はきっと喜ぶよ。今度教えてあげるといい」
「はい」
「さぁ柊一、ここ数日、俺は寂しい独り寝をしたよ。今宵は来てくれるか」
ストレートに誘えば、耳朶を赤く染めた柊一が歩み寄ってくれる。
「海里さん……じ、実は……僕もそうして欲しかったんです」
素直な言葉が、俺を今宵も魅了する。
君なしでは生きていけないよ、もう――
「雪也くんは順調だ。この調子なら……六月の俺たちの結婚式に、雪也くんの快気祝いも兼ねられそうだよ」
「け、結婚式ですか……」
「うん、ほら……去年瑠衣のお祝いをした時に約束しただろう? 次の白薔薇が咲いたら……俺たちの結婚式は改めてしようと」
「は、はい」
柊一、君と……
病める時も、健やかなる時も、愛し、敬い、慈しむことを誓いたい。
時が俺たちを分かつまで、ずっと共にいたい人だから。
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