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永遠の誓い 12

にぎり寿司をつまみながら、ふたりで日本酒を嗜んだ。  こんな風に外食するのは久しぶりだね。  雪也くんの手術が決まってから、柊一のガードはますます堅くなった。 『風邪を持ち込んでは大変なので、暫く繁華街には出歩きません』と頑なだったのに、手術が終わった途端に扁桃腺を腫らしてしまうなんて……よほど根を詰めていたのだろう。  もう少し寛いで過ごさないと……君の几帳面で真面目な性格が心臓に負担をかけそうで心配になるよ。だからこうやって元気になった雪也くんの姿を見せて、安心させてやりたかったんだ。  俺の思いが伝わったようで、心から喜んでくれた。  君の喜びは、俺の喜びだ。   「柊一、もうそれ位にしないと」 「あ……はい。とても澄んでいて懐の深いお酒ですね。何という銘柄なんですか」 「うん? 君、ラベルを見せてもらえるか」  店の女将に頼んで、大吟醸の瓶をカウンターに置いてもらった。 「お客様……こちらは『百年翠《ひゃくねんみどり》』という銘柄の京都のお酒です。ふわりと立ち込める華やかな香りと透き通った中に潜む重厚な味わいが自慢の大吟醸で、100年200年……1000年と美しい翠《みどり》色を維持する松の生命力と、その格調の高さを表現しております」 「縁起のいい名前だね」 「あの……失礼かとは思ったのですが、お二人は生涯を添い遂げられるご関係では?」  女将の瞳は興味本位ではなく、真剣だった。なので素直に認めた。   「……そうだよ。ありがとう」 「いえ『松』は『待つ』です。松は昔から神様が天から降りて来られる木として考えられてきました。今でもお正月の門松として残っていますね。なので……祝福を込めて選びました」 「いいね。そういう話は……彼がとても好きだ」 「海里さん、今のお話し……素敵ですね。道理で美味しいはずです」    柊一が、うっとりとした表情で俺を見上げる。  潤んだ瞳誘っているのか。  まだ駄目だよ。中庭まで待たないと。 「この日本酒を三本譲ってもらえるか。おいくらだ?」 「畏まりました。京都酒蔵からも取り寄せ出来ますので」 「ありがとう」  帰り道……  テツの運転の車中で、柊一は睡魔と闘っているようだった。 「……海里さん、思い出しました。松は待つの和歌が万葉集にありました。僕が好きなのは……」 我がやどの 君松の木に 降る雪の 行きには行かじ 待ちにし待たむ                                                   万葉集第6巻 1041 読人知らず 「ん? それはどういう意味だ。俺は和歌の解釈に疎いから教えてくれないか」 「はい、こういう意味です……『僕の家の君を待つ松の木に降る雪のように行き(雪)はしない、待つ(松)ことにしましょう』と……」  そう言うとふっと眠りに落ちてしまったようで、俺の肩に体重がかかった。  愛おしい。  いじらしい君は、いつも俺の帰りを待ってくれている。  俺も君と暮らせば暮らす程……離れがたいのだ。  いつか、職場と家を兼ねた場所に移り住みたくなるよ。  

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