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永遠の誓い 13
「ユキ、美味しいだろう?」
「うん、白玉の喉ごしがいいね」
「よかったなぁ」
白玉あんみつを頬張る僕のことを、谷口が見て微笑む。
「はは、そんなに見るなよ。照れる」
「だってさ、ユキとここに来るのが夢だったんだ」
「そうなの? そんなのまたいつでも叶うのに」
目の前の谷口があまりに感激しているのが、不思議だった。
「これがきっと見納めだからさ」
「え? どういうこと」
「オレ……実は来月……転校するんだ」
「えっ?」
青天の霹靂だった。幼稚舎から家族ぐるみで仲良くしていた谷口がいなくなるなんて。
「オレ……ずっと心配だったんだ。オレがいなくなったら、ユキが休んだ時、誰がフォローしてくれるのかって。だがお前は手術を受けて元気になった。だから……もうオレがいなくても大丈夫だよな」
「そんな、どこへ、どこへ行ってしまうんだ?」
「イギリスなんだ」
「え……海外なのか」
「ん、これからはどんどん国際化していくだから親もそのまま向こうの高校と大学に行けって言ってるよ。正直オレもチャンスだとは思っている。オレ英語が好きでずっと頑張ってきたし、やっと実践で活かせるのかなって」
正直、寂しかった。
正直、羨ましかった。
心臓病のせいで外国に行ったことになかった僕だから。
「そうか……今までありがとう」
「おい、ユキ、よせよ。向こうに行っても友達だろ?」
「そうだね。寂しい気持ちはもちろん強いが、羨ましいよ! 憧れる!」
「ふぅ……ユキって心が綺麗だよな。妬んだり、ひがまず……簡単に羨ましいとか憧れると言ってくれるんだな」
そうなの? 僕の家では普通のことだよ?
素直に物事を受け止め、心の賞賛は声に出す。
相手の幸せを喜んでこそ、真の紳士だと。
「だってそうじゃないか。谷口の英語の発音はいつも最高に綺麗だよ。向こうに行っても、きっとすぐに通用するよ」
「ありがとう。ユキの発音だって凄く良くなったよ。この前話してくれた『クイーンズ・イングリッシュ』も完璧だった」
あれはアーサーさんの直伝だったからだ。
「いいな。僕もいつか英国に行きたいな」
「それはユキにも持てる希望だ。いつかまた会えるさ」
「ありがとう。谷口……いや、だいちゃん」
谷口大輝だから『だいちゃん』ずっとそう呼んでいたのだ。
「へへっ、久しぶりにそう呼んだな」
「うん、僕の大切な友達だよ。だいちゃんはずっと」
「絶対また会おうな。その時はお互い彼女がいるかも!」
「うーん僕はどうかな? そういうのさっぱりだったから」
「そんなことない。ユキはもっと背も伸びるし、男らしく格好良くなるさ」
「そ、そうかな」
永遠に話していたくなるような楽しい時間だった。
ひとりで電車に乗って帰宅すると、正門前に桂人さんが立っていた。
僕を見つけてホッとした表情だった。
心配かけてしまったかな?
「雪也さん、お帰りなさい」
「ただいま。あの兄さま……もしかして怒ってる? 遅くなってしまったこと」
「いいえ、まだ柊一さんは戻っていませんよ。今頃は海里さんと逢い引き中ですよ」
「あいびき? あぁデートだったんだね。兄さま……そうか、よかった」
「今日はおれとふたりです。テツさんはふたりを迎えに行きましたから」
「そうなんですね。あの……桂人さん、お紅茶を二階に運んでもらえますか。一緒に飲みましょう」
「畏まりました」
二階の部屋から外を見つめた。
兄さま、今日はデートで遅くなるんですね。
本当に良かったです。
ずっと僕が足止めしてしまっていた兄さまの人生。
どうぞ、どうか……海里先生と幸せな道を真っ直ぐに歩んで下さい。
僕に今度は見守らせて下さいね。
兄さま達を守れるくらい、力強い心を持ちますから。
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