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永遠の誓い 14

 桂人さんは紅茶を淹れると手持ち無沙汰になったようで……ぼんやりと壁際に立っている様子は、年下の僕から見ても頼りない感じがする。 「桂人さん、もう自由にしていいですよ。僕はこの窓辺から兄さまが帰ってくる様子を見届けたいので」 「雪也さん。じゃあ、そこの窓から木に登っても?」 「もちろんです! さぁどうぞ」  窓を開け広げると、桂人さんは靴を脱いで、執事服のまま空に羽ばたいた。  黒い執事服に、まるで翼が生えているようだ。  あなたは燕《つばめ》みたいな人!  そういえば学校で習ったが、ツバメは春の復活祭の頃になると戻って来るので、ヨーロッパでは『春の使者』『復活と再生を象徴する鳥』として有名だ。  またツバメは同じ場所に戻ってくる習性があるので『遠くに旅立っても必ず戻ってくる』安全のシンボルだったな。 この冬郷家を……きっと桂人さんは生涯をかけて守ってくれるだろう。  えっと、あとは何だっけ?  僕は本棚から図鑑を取り出し、ツバメにまつわる話を文字で追った。 「そうか! 本当に我が家に桂人さんが来てくれてよかった」  本によると……ツバメは、人の家に巣を作るそうだ。  その基準は明確で、人の出入りが多い場所を選ぶそうだ。これは家が栄え、商売繁盛していことを意味し、また日当たりと風通しが良い場所に巣作りするのは、病人が出ない健康的な家を暗示している。  なんて、なんて……素晴らしいのだろう。  もしかしたら桂人さんの前世は燕だったのでは?  そんな希望を抱いてしまうよ。 「雪也さん、屋敷の壁にツバメの巣があるんですね」 「え! 本当ですか」  屋敷より高い所にいる桂人さんが声を張り上げた。  わ……! 僕の頭の中を覗かれたみたいで照れ臭くなるよ。 「えぇ、あれ? こいつら夫婦で子育てしてますよ」 「あ……そうなんです! ツバメはオスも卵を抱いて雛《ひな》にエサを運ぶそうです!夫婦で力を合わせて子育てをする珍しい鳥なんです」 「そうなのか……雄も子育てをするのか」 「はい」  その時、僕の脳裏には大きな虹のアーチが架かった。  虹を渡るのは、まだ見知らぬ若い女性と僕。  僕たちは仲良く白いレースのひさしのついたベビーカーを押していた。    赤ん坊が「えーんえーん」と泣けば、海里先生と兄さまがあやして下さり、また「えーんえーん」と泣けば、テツさんと桂人さんがあやしてくれる。  見渡せば……冬郷家の屋敷には白薔薇が咲き誇り、青空にはツバメが三組、仲良く飛び交っていた。    これはいつか叶う夢だ。  光が差し込む。真っ直ぐに…… 「あ、皆……帰ってきたようですよ」 「あ……っ、そうですね」  さぁ、目をしっかり見開こう。  テツさんの運転する車で、海里先生と兄さまがお戻りになった。  健康体になった僕が、彼らを出迎える。  これはずっと憧れていた夢の一つ。  階段を駆け下りる。してはいけなかったことを、今日はしてみる。  正面玄関を開けて、「お帰りなさい」と呼ぶ。  今、叶う――!

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