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永遠の誓い 15
「お帰りなさい、兄さま!」
正面玄関を飛び出して近寄ると、兄さまは車の後部座席で海里先生の肩にもたれて、すやすやと眠っていた。
「シーッ」
海里先生が人差し指を唇に縦に当てて、優美に微笑まれた。
「あっ、ごめんなさい。兄さまは酔っ払ってしまったのですか」
車中からお酒の匂いがした。しかし上質な匂いだったので嫌ではなかった。それよりも兄さまが外で飲まれて酔っ払われるなんて珍しく、嬉しくなった。
いつも気を張っておられた兄さまも海里先生と一緒なら、こんなに気を許せるのですね。
兄さまのデートは、大成功ですね!
兄さまに直接「お帰りなさい」とは言えなかったけれども、もっと素敵な光景を見せてもらった。それが嬉しくて、兄さまにはデートの余韻も楽しんでいただきたくなった。
「海里先生、兄さまをお姫様みたいに抱き上げて、運んで下さいませんか」
「雪也くんもロマンチストだね。俺は酔っていないので容易いことさ」
「柊一、失礼するよ」
海里先生がふわりと兄さまを抱き上げて、車から降りられた。
わぁぁ、とても素敵です!
まるで今の兄さまは。おとぎ話の主人公ですよ。
「どこに運べばよいか」
「あ、あの……今宵は夜風が心地良いです。せっかくならお二人で中庭で涼まれるのはいかがでしょうか」
「お? 君は賢いね。ありがとう」
海里先生がとても華やかにウィンクされた。
兄さまが、兄さまの人生を謳歌して下さる。
僕が病気を克服したら……願っていたことが叶いだしている。
「雪也さん、これ……持って来た」
振り向けば桂人さんが、水差しに入った檸檬《レモン》水を用意してくれていた。
いつの間に?
「瑠衣さんが、柊一さんが酔っ払った時はこれをと言っていた」
桂人さんも執事モードが疲れてきたようで話し方が素に戻っていたが、僕はこれでいいと思う。
そんなに畏まらないで欲しい。僕たちはこの先もずっとずっと一緒にこの冬郷家で暮らす仲だよ。ツバメのような人。
「ありがとうございます。海里先生は兄さまを抱いて運んで下さい。僕が中庭まで案内します」
「じゃあ、おれはブランケットを取ってくる」
桂人さんも兄さまのおとぎ話の時間が続くように、お手伝いをしてくれる。
テツさんがガーデンキャンドルを灯してくれ、桂人さんがブランケットとクッションを東屋のベンチに設置してくれた。
「海里さん、これもどうぞ」
テツさんが早咲きの白薔薇を摘んで、檸檬水を置いてテーブルに飾ってくれた。
すごい! すごい! 兄さま、最高です! まるでおとぎ話ですよ。
心の中でそう叫んでしまった。
「ん……あ、あれ?」
そこで兄さまが長い睫毛を震わせ、目覚めた。
「海里さん? ここ……どこですか」
「柊一起きたのか。ここはおとぎ話の中だよ」
もう~海里先生ってば格好いいな! そんな台詞を言ったら兄さまが蕩けてしまいますよ。
「あ、ユキ……雪也は?」
「兄さま、お帰りなさい! 僕ならこの通り元気ですよ」
まだ寝惚け眼の兄さまにそう告げると、兄さまは本当に嬉しそうに微笑まれた。
「ユキ、ただいま! ユキ……今日は楽しかった?」
「はい、とても。谷口くんと寄り道もしました。美味しい甘味屋さんでしたよ。今度兄さまも連れていってあげますね」
「それは良かった。雪也……急に頼もしくなって……本当に良かったね」
「はい! では兄さま、少しここで酔いを覚まして下さいね」
「あ……うん、ありがとう」
兄さまが僕を愛おしそうに見上げて下さる。
いつだって僕はこの優しい眼差しを浴びている。
病気の時も元気になっても……兄さまが僕を弟として深く深く愛して下さる。
あぁ……今宵はじんわりと兄さまの温かな心が届く。
お父様の分もお母様の分も、僕をこんなにも愛して下さってありがとうございます。
そんな兄さまが冬郷家で皆に大切にされている光景を見ることが出来て、本当に嬉しいです。
間もなく結婚式ですね。
心からの祝福をさせて下さい。
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