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大きな翼 15
飛行機は、いよいよ着陸態勢に入った。
地上に降り立つ瞬間の衝撃で、柊一はきっと目覚めてしまうだろう。
ドシンッ!
「わ!」
案の定、柊一が音と衝撃に驚いた様子で、パッと目を開けた。
「あ……僕……」
「おはよう。柊一、もう英国だよ」
「え……まさか。先ほど機内食をいただいたばかりで……あと8時間はあると……」
「あれから、よく眠っていたよ」
そう告げると柊一は、シュンと項垂れてしまった。
「どうした? 何故そのような悲しい顔を?」
「海里さんをお一人にしてしまいました……それに……機内であなたともっともっと沢山お喋りを楽しむ予定だったんです」
なんと……これはまた可愛いことを。
そんなことで、こんなにがっかりするなんて。
柊一は真面目に落ち込んでいるのだが、私は嬉しさを隠せない。
俺はこんなにも大事に愛されている。
それが嬉しくて溜まらない。
「柊一、旅はこれからが始まりだよ。開幕だ。さぁ笑っておくれ。帰りの飛行機もあるし、まだまだ俺たちは共に旅行を出来るだろう? 俺はそのつもりだけれど?」
「あ……はい。そうですね」
ブランケットの下で、柊一の手をキュッと握ってやると、ようやく彼の頬に赤みが戻ってきた。
「さぁ、瑠衣たちが来ているはずだ。降りよう」
「は、はい……」
寝起きの柊一が、ふらりと立ち上がった。
「大丈夫か」
「は、はい……無事に到着したので、安堵したようです」
到着ゲートを潜り、いよいよ到着ロビー。
ところが、そこで……まだ夢心地だったのか、柊一が平らな床に何故か躓いて、派手に転んでしまった。
「あっ!」
「お、おい。大丈夫か」
俺はさっと膝を突いて、柊一の元に駆け寄った。
「さぁ、手を」
「は……恥ずかしいです。転ぶなんて」
「ふっ、ここは異国の地だ。誰も君を知らない。安心して……さぁ立って」
柊一は張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのか、いやいやと子供みたいに首を振る。
「どうしよう、足に力が……」
俺限定で甘える君が愛おしくて、俺は君の足に手をかけて、グッと立ち上がった。
「ならば、姫……こうしましょう」
「え?」
It's like a fairy tale!
It's romantic!
姫のように横抱きにしてスッと立ち上がると、周りから大きな歓声が沸き上がった。
「か、海里さん……降ろして……下さい」
「もう皆の注目は集めてしまったよ。このまま車まで行こう」
「う……」
柊一は耳まで真っ赤にして俺の項に顔を伏せるようにして、しがみついてきた。
『WELCOME! KAIRI&SYUICHI』
柊一を抱え上げてスタスタ歩くと、ウェルカムボードを持ったアーサーがウィンクしているのが見えた。
そしてその横に唖然とした顔の瑠衣が見えた。
(ん? 瑠衣は少し不機嫌そうだな)
「さぁ行こう! 俺たちの新婚旅行の始まりだよ」
恥ずかしがる柊一の首元には、俺がつけた印が赤く浮き出ていた。
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