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霧の浪漫旅行 10

「アーサー、レモネードを飲めそうな場所といえば、ここからだとアップルマーケットが近いね」 「そうだな。あそこなら海里と柊一くんも気に入るだろう」  コヴェントガーデンのメインロードは高い天井の建物内に沢山の店が軒を連ねていて、あの日のようにオペラやクラシックの演奏や大道芸が繰り広げられていた。  ここでの楽しみ方は、人それぞれだ。  いつも、ここを歩くといつも活気に包まれ、力が湧く。  そして今日はいつも以上のパワーをもらっている。  その理由は、明確で単純だ。  瑠衣……君とまたこんな風に、あの頃に戻ったような気持ちで歩けるなんて、幸せだよ。  あの時の俺たちは、まだ17歳だった。  雑踏の中に、初々しい俺たちの姿を見えるようだ。 「あ、あの……!」 「どうした? 柊一」 「あのお店……」 「あぁガーデニングショップだな」 「少し寄ってもよろしいですか」 「ん? レモネードを飲んでからにしたらどうだ?」 「あ……そうでした。すみません」 「いや、いいよ。気になるのなら先に寄ろう」  海里と柊一くんの会話が、初々しくて微笑ましい。  相変わらず柊一くんは、自分のことよりも他人のことを優先させてしまう性格らしい。   「あ、このスコップ。テツさんに良さそうです。このガーデニングブックも……」 「二人にお土産か」 「はい……僕だけこんなに楽しんで……留守番をしていただいているテツさんと桂人さんにお土産を探していたのです。立ち止まらせてしまって、すみません」 「いいんだよ。気が済むまで見るといい」  ふぅん、相変わらず海里の愛は深いな。  俺も負けていられない。 「瑠衣、俺たちも買い物をしよう!」 「ん? 何を」 「ノーサンプトンシャーに戻ったら、一緒に庭の手入れをしないか」 「薔薇の?」 「そうだ、瑠衣の薔薇を咲かせよう」 「いいね。じゃあ、手に馴染む花鋏を買おうかな」 「お揃いで買おう」 「いいね」  その会話を聞いていた柊一くんが、頬を染めた。 「どうした?」 「瑠衣とアーサーさんって、愛しあっているのが滲みでていますね」 「おぉ、そうか! ありがとう」  第三者さから俺たちの関係を褒められる機会なんて皆無なので、照れ臭いが嬉しかった。  愛し合っている者同士、恋し合っている者同士。  俺たちの恋は、永遠に青春だ。 「あ……海里さん、この花鋏、左利き用です。桂人さんにぴったりかも」 「なるほど、良さそうだな」  柊一くんも、生き生きしているな。  海里は全ての荷物を持ってあげているし、二人も熱々だぞ。 「さぁそろそろ移動しよう、冷えてきた」 「はい」  少し歩いた所で、柊一くんが慣れない石畳に躓いて転びそうになった。 「あっ!」 「危ない!」  もちろんすかさず海里が腰に手を回し、転ばないように支えてやったが。 「柊一」 「あ……はい」  二人はごく自然に手を繋いで歩き出した。  俺もあの日、瑠衣の手を引いて歩いた。  俺も繋ぎたい。だが、こんな公の場所で繋いだら、瑠衣は嫌がるか。  少し躊躇っていると、ふっと指先に温もりが届いた。  真横に並んだ瑠衣自ら……手を繋いでくれたので驚いた。 「瑠衣……いいのか」 「そんなに羨ましそうな顔をしないで、僕だって……アーサーを愛しているんだ」  瑠衣はぷいと顔を逸らしたが、頬が薔薇色に染まっていた。  大きめのダッフルコートの袖に隠れて……俺たちは手を繋いでロンドンの街を歩き出す。  気が付くと……霧の街ロンドンらしく、霧が立ちこめてきた。  だが俺たちの恋は、霧には紛れない。  もう迷わない。  こうやって、手を繋ぎ合っているからね。    

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