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delete あの日のこと
「佳人……! ごめんっ、ごめんな……っ!」
──いいよ。気にすんなって。
お前に、そう言ってやれたかは分からない。けど、ちゃんと聞こえるように何度も叫んだつもりだ。
「痛いよな、ごめん、ほんとに、ごめんっ」
──大丈夫だって言ってんだろ。だからそんな泣くんじゃねーよ。
だから今だけ。今だけにしよう、こういうのは。
明日からはいつも通りのダチに戻ろう。一緒に登校して、飯食って、馬鹿な遊びをしようぜ。
今のことは全部、デリートで消してしまおう。何もかも忘れて、今まで通りでいよう。
「佳人……!」
だから、泣き止めって。
◆
俺と東は、いわゆる幼馴染というやつだった。
東の家はパン屋をやっていて、俺の母親はその店の常連。母親にひっついてやってくる俺と、東が仲が良くなるのは当然の流れだった。
東と俺は同い年だったが、東は俺より遥かに大柄で体格が良かった。小さい頃の俺は、自分は東より四ヶ月年上なのに、どうして俺の方が小さいのか不思議だった。
その疑問は小学6年生の保健体育の時間に解決した。
「私たちには〝男の子〟と〝女の子〟の他に、3つの性が存在します。〝α〟〝β〟〝Ω〟の三つです」
曰く、αは頭脳、身体能力、体格、容姿など多くのものに恵まれている性。βは標準的な能力を持つ性。Ωは男女共に妊娠出産が可能という特徴があり、繁殖に最も適した性だと言う。
αは全体の2割、βは7割、Ωは残りの1割という比率。ここには50人いますから、αは10人、Ωが5人いてもなにも不思議じゃありませんよ、と先生は言った。
途端に教室はざわざわし出す。
──あいつ、αかもな。
──わたしβな気がする。
──男でΩってやだな、もしそうだったらどうしよう……。
みんなが騒ぐのを先生は注意して、説明を続けた。
俺はこの時、東はαだろうと確信した。東はαだから俺より体が大きくて、勉強ができて、足が速いんだ。
きっと自分はβかΩだろう。できればβがいいな、ぼんやりとそう思ったのを覚えてる。
案の定、その後の検査で東はαだと分かった。
そして、俺はΩだった。
「いい? Ωだってことはむやみに人に言っちゃダメよ」と母が言った。できれば東君にはもう、あまり近づいて欲しくないわ、とも。
当時、俺は母親がなんでそんなこと酷いことを言うのか分からなかった。どうして性別如きで俺とあいつを引き離そうとするのか、分からなかった。
俺は我慢できなくて、自分がΩだったと言うのと一緒に、このことを東に愚痴った。
「本当だよな!」
東が大きく頷いてくれたのを見て、俺は心底安心した。
「だよなー。東が俺を襲うとかないよなー」
東は笑って、吐くジェスチャーをした。
「ないない! きっしょー」
「きしょいは傷つくわ!」
あはは、とどちらともなく笑う。
「ま、とにかく、俺は佳人を傷つけるようなことは絶対しないよ。友達だろ」
東の言葉は力強く、俺の中に響いた。こいつならきっと大丈夫だろうと、なんの疑いもなく信じれた。
「そもそもお前彼女いるしな」
「まあな」
「なにそれ、勝者の余裕?」
「佳人も作ればいいだろ──」
俺の店に東の母親が来なくなった後も、俺と東の交流は続いた。
そして俺に発情期が訪れないまま、俺たちは偶然同じ高校へ進学した。東は部活、俺は店の手伝いでそれぞれ忙しかったが、家も近かったし、空いた時間は頻繁に遊んだ。
そうやって過ごした高校生活は、2年目の秋に突入していた。
◆
「赤松お前、今日日直だろ。これ数学準備室にこれ持ってきて」
「えー」
「えーじゃない。頼んだぞ」
教卓に積み上がった数学のスキルを見て、俺はげんなりした。
今日は夕方ごろ天気が崩れる予報なのにも関わらず、傘を忘れてきた俺は一刻早く家に帰りたかった。
「どんまい佳人」
部活のユニフォーム姿の東に、ぽんと肩を叩かれる。にやついた顔にむっとした。
「手伝え」
「無理―部活―」と東はさっさと教室を出て行く。
薄情者め、と恨めしい目でその背中を睨みながら、俺はスキルに向き直った。
早く済まして帰りたい。が、このどう考えてもこの量は一回じゃ無理なので、俺はその束を半分に割って、片方を持った。
何回か階段を昇り、長い廊下を渡ってようやく数学準備室に辿り着く。
「失礼しまーす」
「おお、おつかれさん」
この重労働を俺に課した張本人──数学教師の室井──は涼しい顔で振り向いた。
室井しか使わない数学準備室はほぼ私室になっていて、室井が座るデスクが一番奥にあり、その手前、部屋の真ん中には来客用の低いテーブルとソファがある。室井はそのテーブルにスキルを置くように指示した。
よいしょとテーブルに降ろすと、近づいてきた室井が眉を潜めた。
「なんか少なくね?」
「多すぎるから2回に分けるしかなかったんですよ」
「あーだよなー」
「だよなーじゃないですよ、ほんと、適当です、よ、ね……」
突然、猛烈な目眩に襲われて、俺は床に倒れ込んだ。
おい、大丈夫か、と室井が叫んでいるのが遠くで聞こえる。
(なんだ、これ……)
心臓がバクバクと暴れ、身体が異常に熱かった。あっという間に息が切れ、呼吸が荒くなる。頭がぼうっと靄がかったような感覚。大丈夫です、と立とうとするも手足が震えて、立てない。
(まさか、これ……)
状況を理解して、俺は血の気がサッと下がるのを感じた。
「お前、それ、発情期か……?」
ハッとして振り向くと、室井と目が合う。
室井の目は熱に浮かされて、それでいてギラギラと光っている──捕食者の目だ。
(まさかこいつ、α⁉︎)
まずい、と俺は力を振り絞って立ち上がり、逃げ出そうとした。しかしすぐに腕を掴まれて、テーブルの上へ投げられる。頭をがん、と打ち、積んであったスキルが床に散らばる。
そんなことはお構いなしに、室井は俺の上にのしかかって来た。
「や、やめて下さい先生!」
「Ωだ……いい匂い……」
「や、やめ、やめろよ!」
反抗するも、室井はぐっと身体を押さえ付けてくる。そも、俺はまともに反抗できていなかった。
室井は性急に俺のベルトを外し、ズボンを捨て去る。丸見えになった尻の窄まりに、いきなり指を突っ込まれ、俺は呻いた。痛みはなく、すでにそこはじっとりと濡れていた。
「やめて、やめて……せんせいっ」
(熱い、体が焼けそう、ナカが、ナカあつい)
ほとんどないような理性が必死に抵抗した。けれど体格も力も遥かに違う室井には勝てない。俺の抵抗なんてないかのように、室井は夢中で指を動かし、俺のナカを弄っていた。
「あ、ああっ、せんせ、せんせぇ、あああっ」
胸を喘がせながら、俺は鳴いた。理性はなくなり、与えられる快感だけを追いかけた。
(きもちいい、ナカ、すごく、きもちいい、でも、たりない、たりないよぉ)
自分の下半身から、ぐちゅぐちゅとだらしない水音がする。
自分の中に、今何本指が入っているのかも分からない。
「ああっ、せんせぇ、イクっ、イっちゃうよ、あああんっ」
イク、と思った瞬間、俺にナカから指が抜けていく。絶頂感が突然引いていき、苦しくて俺は喘いだ。
なんで、と振り返ろうとした俺の尻に、今度は指じゃないものが当たった。
それは熱くて、硬くて、大きい。見なくてもそれが何か分かった。
(ほしい、はやく、いれてっ)
体が喜んで、勝手に腰が揺れた。
とにかく、早くそれが欲しかった。
「な、にやってんだっ‼︎」
怒号と共に、上に乗っていた室井の体が吹き飛んだ。室井の体は派手にデスクにぶつかり、床に転がって動かなくなった。
見上げると、東が立っていた。
東は信じられない、というように顔を歪ませているが、目は室井のようにギラギラと光り、股間がズボンを押し上げていた。
「佳人、お前、抑制剤は⁉︎」
答えない俺に東はクソッと呻き、自分の部活用鞄を漁り出す。
俺は本能のままに東の足へすり寄ると、ずる、とズボンを引き下げた。途端、ペニスが飛び出してくる。
「お、まえ! なにやってんだ! やめろ!」
咥えようとしていた俺の頭を引き剥がしながら、東は鬼の形相で怒鳴った。
「ほしぃ、ほしいのっ、あかちゃん、ほしいっ」
「やめろ! 正気に戻れ佳人! 今、抑制剤打つから!」
「やだ、はやく、ほしい、りゅーたぁ」
無意識に「東」ではなく「竜太」と呼んでいた。鞄の中を漁っていた東の手が、ぴたりと止まる。
「俺たちは、〝友達〟だろ……? 佳人……」
東は消え入りそうな声を絞り出すようにそう言った。
「〝友達〟は、こんなことしねえんだよ……っ」
俺の頭を押さえ付けていた力が弱まった隙に、俺は東のペニスを咥えた。びく、と口の中で膨らんだのが分かった。
「じゃあ、ともだちじゃ、なくていーよ」
だから、これちょうだい、と言おうとして言えなかった。東の分厚い唇が、舌が、俺の舌を絡めとったからだった。
ぐちゅん、と生々しい音を立てて、東の太い指がナカに挿入され、「あん」と俺は喘いだ。挿入してすぐ、東の指は俺のナカを乱暴にかき混ぜ始める。
「ああっ、ああああきもちいいっ、きもちいぃよおっ」
さっき中途半端に堰き止められた絶頂感が、すぐに戻ってくる。
「イッ、イクイクっ、ああああんっ」
自分のペニスから、精液がぴゅっと飛び出して、自分の腹を汚した。絶頂しても、少しも熱は引いて行かなかった。物足りない、とナカがヒクヒクと痙攣した。
「りゅうたぁ、ナカ、たりないっ、ひい、ああっ、ほしいぃ、りゅーたの、あかちゃんっ、ほしいよぉ」
訳も分からず俺は泣きながら喘いだ。
のし、と背中が重くなり、後ろの窄みに、室井よりも大きく硬いモノが当たった。そしてそれは指の何倍もの質量をもって、俺のナカを割り裂いて侵入してくきた。
奥まで入ってすぐ、俺は体ごと激しく揺すられた。
「ああっあああっ、ひい、ひあっ、あんっ、あんっ」
大きなモノで突かれて、体がめちゃくちゃに悦ぶ。ナカをペニスが行き来して、奥にゴンゴン当たるたびに、俺は絶頂していた。
「奥っ、おく、きもちいぃっ、あんっ、ああん、ソコっだめぇ」
水みたいな精液が突かれるたびに漏れる。もうなにも考えられなくて、俺は前後不覚になりながらひたすら喘いだ。
「りゅうたぁ、ごめ、ごめんっ、ああん」
自分がなにを口走っているのかもう分からない。
「おれたち、ああっ、ともらち、なのにぃ、ごめんなっ、ああん、ソコっ、もっとっ、どちゅどちゅってシてぇ……!」
「佳人……っ!」
「あっ、ああああんっ、ナカ、きてる、あついのでてるっ」
東は呻き、俺の名前を呼んだ後、一番奥でびくん、と大きく痙攣した。ついで、じわりと奥が温かくなる。その感覚に俺もイッた。
ぜえぜえ、と喉が鳴る。少しだけ理性が戻ってくる。
しかしそれは束の間で、東は抜かないまま、また激しく動き始めた。
「ああうっ、ああっ」
「佳人……! ごめんっ、ごめんな……っ!」
「あああっ、あうっ、ああんっ」
「痛いよな、ごめん、ほんとに、ごめんっ」
「きもちいぃっ、りゅーたの、ちんこっ、きもちいいよぉ」
「佳人……!」
「ああんっもっと、もっとっもっとぉ、こだね、りゅーたのあかちゃん、ほしいのぉ」
その後のことは、なにも覚えていない。
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