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第1 跳び族の長子の定め 1
『お前は跳 び族の族長の長子だ。だから皆の為に生きなさい』
真っ直ぐにレフラを見つめてくる父の顔。族長として村を背負うその顔が穏やかに綻んだところを、レフラは一度も見たことがなかった。
これはいつの記憶だろう。その台詞からはいつの記憶か定まらないぐらい、今日まで散々聞かされてきた言葉だった。
『お前だって知っているはずだ、最弱種族と呼ばれる我々の立場を』
もう一つ聞こえた別な声。父の横に胡坐をかいて座っているのは、白い髭を称えた翁だ。
となれば、ああ、確か五つにも満たない頃。初めて伝えられた時のものだろう。
その言葉に幼かった自分が、力強く頷いた事を覚えている。
頷きながら、だからこそ自分がこの村や幼い兄弟達を、守っていくのだと思っていた。そして、その為にも少しでも強く、賢く在ろうとしていた頃だった。
(まだ何も知らないで……)
知らなかったから、自分の力を信じられ、色々な未来を夢見て居られた。
それなのにそんなレフラへ告げられたのは、努力は意味がないと告げる辛い言葉でしかなかったのだ。
『兎を先祖に持つ我々は、身を守る為の足だけは速いが、生き抜く力が弱すぎる。それでも族長の長子が黒族の長子へ嫁げば、彼らの庇護が受けられるのだ』
『だからお前も大人に成れば、立派に嫁いで子を成しなさい』
『それが黒族と跳び族の幸せであり、ひいてはお前の幸せに繋がるのだから』
族長である父を筆頭に、レフラを取り巻いて居たのは村の重鎮達。
レフラがまだ会った事さえないその者と、子を成す以外は誰も求めていないのだと。それ以外は無意味なのだと。暗に告げる大人達を、あの日の自分は信じられない思いで見上げたのだ。
村の為に家族の為にと思って頑張っていたはずなのに、剣術も読み書きも、全てが独り善がりでしかなかったのだ。
夢見ていた未来が真っ黒に塗られて、それなのに頭の中は真っ白だった。だけど、その事を知った幼かった自分に、いったい何が出来ただろう。
『狼を祖として持つ黒族はこの世界の覇者だ。次期当主となるギガイ様は、まだお若いながらもその中でも卓越した力を持つと言う。そんな方へ嫁げるのだから喜ばしい事なのだ』
そんな言葉を聞きながら、泣いたりなどしないよう、膝に置いた拳をひたすら強く握りしめ。
『……どうして黒族の長子は同じ種族の者を娶らないのですか?他種族の、よりにもよって最弱な、跳び族を選ぶのはなぜですか?』
せいぜいそんな質問をする事ぐらいが精一杯だった覚えがある。
そんな事を聞いたところで何も事態は変わらない事は分かっていた。それでもそんな事さえなければ、自分がこんな風に犠牲に献げられる事はなかったはずなのだ。
それに、とレフラはその質問の答えに縋る。
どの道逃れる事ができないのなら。
せめてその理由がレフラが手放す夢と同じぐらい、意味がある事でいて欲しかった。
だからこそ、思わず零れた質問だった。
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