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第2 跳び族の長子の定め 2
縋るような視線で大人達を見渡せば。
『黒族はなかなか子を成す事ができない。だから黒族同士で跡継ぎを作る事は難しい』
視線を受けて、応えを口にしたのは父だった。
『それに対して無性で生まれ、大人に成る内に性別を定める私達跳び族は、子を成す事は他種族よりも容易い』
だがその応えはレフラが縋りたかったものではない。告げられた真実はどこまでも残酷な内容で、幼いながらに感じたのは、深い深い絶望だった。
実際は跳び族が子を成す事は、容易いどころの話ではなく、跳び族を孕み族と口さがなく言う者がいるぐらい、繁殖力は強かった。
そのため常に村には人が溢れ、行き過ぎた人口は村の困窮の一因にもなっている。
そしてレフラは、そんな風にバカにされる性 がずっとずっと悔しかった。
弱いくせに、と言われると、孕み孕ますだけの種だとバカにされて居るように感じていた。だからこそ強くなって、最弱種族なんかじゃもうないと、見返してやりたいと思っていたのに。
『そのため、黒族の次期当主へ跳び族の長子を嫁がせて世継ぎを産む。こうやって黒族の種を守る代わりに、跳び族を庇護して頂く取り決めとなっているのだ』
『お前はその候補の御饌 なのだ』
それなのに、そんな自分の存在が誰とも知らない男との子を成す為だけ、と言われたのだから。
『……御饌 』
状況を認識して、口から零れた言葉は小さくて。
『それはとても名誉ある事なのだから、日々その事に感謝して、ギガイ様に相応しい御饌 と成るよう努めなさい。お前が黒族と跳び族を守るのです』
守ると言った険しい顔の老女を見つめて、そして自分は小さく頷くしかなかったのだ。
大人に成れば父に代わり、この跳び族を守っていくのだと思っていた。今は嘲られる事が多々あっても、自分が強く成って、誇り高くさえ在れば、変わっていけると夢見てた。
だが実際にレフラへ許された生き方は、レフラ自身が最も忌み嫌っていたものだった。
繰り返し思い出す情景が、こうやって何度も心を抉っていく。
そして何度も思うのだ。
(子を成すだけの存在など、知らなかった方が良かったのに)
いつまでも知らないままでは居られなかっただろうけど。でも努力が無意味なのだと教えられ、傷付いたばかりの時だった。受け止めるにはまだ心は幼すぎたのだ。だから少なくともその時だけは、存在価値さえ揺らぐような、そんな事実は知るべきではなかったのだ。
そうすれば。
そうすれば、まだ少しは変わっただろう。
こんな風にーーーではなく。
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