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第6 忌むべき孕み族 2
「急ぐのですよ、レフラ様」
今度は無視はさせないと、伸ばされたエクストルの掌がレフラの手首を握り込む。
「どこに行くのですか!?このように手を引かれずとも歩けます」
レフラの言葉など聞く気などないのだろう。何も応えずに、エクストルがズンズンと建物内部へと進んでいく。
これが黒族と跳び族の純粋な差なのか。初めて生身で感じる力の差だった。
容易く掴んでいるように見えるエクストルの手を振りほどく事ができないまま、入り込んだ建物を下へ下へと降りていく。
「エクストル様、いくら何でも失礼ではありませんか?私は黒族の現族長であるギガイ様に嫁ぐためやって来たのです。それをーー」
「だからこその対応です」
「えっ?」
「私は黒族の医癒者を束ねる首席医癒官です。そしてギガイ様より到着されたレフラ様の身体のチェックも承っております」
「それはどういう事ですか?」
その問いへもエクストルは再び応えなかった。
そんなレフラの抵抗など意にも介さず、引きずるように進んでいたエクストルの歩みが不意に止まった。もうどのくらいとも分からない深部にある、とある扉の前だった。
「レフラ様は御饌 としてギガイ様に嫁がれるのですから、問題がないか確認をしっかり行わせて頂きます」
不意に手が解放され、わずかに開かれた扉の内へレフラの身体が押し込まれる。踏鞴を踏むように数歩進んだレフラの背後で、今し方入った扉が閉められて施錠される音が聞こえた。
ここは何の部屋なのか。エクストルの意図を探るように、慌てて部屋の中を見回していく。
建物の深部まで進んだとは思えないほどに、天井の採光窓からは明るい光が注いでいる。そんな明るくて、清潔そうで、広々とした部屋の中央に、ポツンと大きな寝台だけが存在していた。
他には何も存在しない、そんな異質としか言えない部屋にレフラの心臓が早鐘を打つ。
「ここは……」
「レフラ様のお身体をご確認させて頂く場所でございます」
ここでそれを行うのだと、告げるエクストルから距離を取るように、思わず寝台の方へと進んでしまう。
こんな場所でいったい何を、確認するというのだろうか。
「それではレフラ様恐れ入りますが、その着衣をお脱ぎ下さい」
「何を言っているのです!?」
「お伝えしたでしょう。嫁がれる前に問題がないか確認をギガイ様より任されていると」
その言葉にレフラは大きく目を見開いた。
隷属の関係だとは思っていた。だから子を成してその責務を果たすまで、伴侶であり主であるギガイの言葉には逆らうまいと決めていた。
だがまさか、主であるギガイ以外の者へもこの身体を拓くよう、求められるとは思っていなかった。
「い、嫌です。先程もお伝えしたように、私はギガイ様の御饌 として嫁いでこの地へ来たのです。間違っても誰かれ構わずに他の方へ身体を差し出す為ではありません!」
悲鳴染みた声が部屋の中を響いていく。
寝台のみが置かれたその部屋で、誰の心へも響かないと分かっているこの言葉は、音も内容もただただ虚しいモノだった。
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