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第7 忌むべき孕み族 3

「何をおっしゃっているのですか?これは御饌(みけ)様だからこそ必要な事。レフラ様に限ってあり得ないとは存じますが、万が一という事もございます」 万が一と言いながらも、跳び族を『孕み族』だと称していたエクストルの声音は、レフラを嘲る音だった。 「万が一に何だと言うのですか!?」 「不貞でございます。嫁がれる前の事とは言っても御饌(みけ)にとっては、その胎は黒族族長だけのもの。まかり間違ってでも他種族の子種がこの黒族の長へと雑じる事があってはならないのですから、嫁ぐ者は未通であってしかるべきなのです」 一歩、一歩と近づいてくるエクストルに圧されるように後退していたレフラの膝裏へ、ついに寝台の縁が触れる。 「ご安心をレフラ様。私は医癒者でございます。レフラ様が未通であり、子を成される事が可能だと、確認させて頂きたいだけでございます」 それ以上は近寄らず、あくまでもレフラ自身へ促すその様にレフラは望みをかけて首を振る。 この布の下の秘密は、今夜の初夜まで守りたい。そしてあわよくば主となるギガイだけが知るところであって欲しかったのだ。 「この身を献げるのはギガイ様だけ、他の者へ晒す事などできません」 「そう仰いましても、そのギガイ様ご自身よりレフラ様の身の確認を承っております故、そのまま何もせず、という訳にはまいりません」 はっきりと告げられた言葉に陰鬱とした感情が心を急速に染めていく。 (やはりギガイ様にとってはこの婚姻は、隷属としか見られていない) 対等な存在として迎えるならば、自分の番をこんな風に他の者に晒すはずがないのだから。 元より分かっていたはずなのに。感情としてはまだ覚悟が足りていなかったのか、と思い知らされる。 そしてレフラは抵抗を止めた。 ギガイ自身の意思として執り行われる事ならば、レフラにはもう拒絶のしようがない事だった。 それでも、どうしても身体が強ばって、柔らかな布の下で身体が震える。躊躇うように衣を掴む掌にも力が隠った。 「どうしたと言うのですか?まさか、本当に」 「違います!」 恥じらいとはまた違う、その様子を訝しんだエクストルの言葉をレフラが強く否定した。 御饌(みけ)の身でありながら、他と姦通などしていない。レフラは正真正銘、未通であり、他の者の熱など知りはしない。ただこの身体を見せたくなかっただけなのだ。 「これはギガイ様の意思なのですから、隠せばそれだけ疑われますよ」 もうこれ以上は隠せない。レフラは諦めたように服の留め具に手をかけた。 身を飾るその他の装飾品に紛れた留め具はわずかに三つ。その留め具を外していく。 一つはそれだけで完全として、完結している数であり。 二つは閉じた世界が初めて広がり、先の展望を望める数となる。 そして三つは展望の先の成果として、これからの発展と繁栄、永劫を謳う数だった。 そんな想いの元に婚姻ではよく使われる吉数を、1つ1つ剥いでいく。そして最後の一つを外した時、軽い音と共に纏う最後の布がパサリと落ちて、レフラの白い裸体が露わになった。

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