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第16 唯一無二の御饌 6 ※
レフラの後ろから引き抜いた根がギガイの手の内で蠢いていた。根を伸ばし歪な動きを見せるソレは、餌となる胎を探しているのだろう。
あの男はいったいどういうつもりだったのか。
こんなモノをレフラの身体へ施したエクストルへ、改めて言葉にできない程の怒りが湧いてくる。その苛立ちのままにギガイは不快そうに眉を顰めた。
徐々に弱まり始めた動きが、しまいには何度か微かに揺れる程度に変わっていく。そしてそれが萎れた頃に、レフラの前からもギガイが蔓を引き抜いた。
敏感な粘膜を擦られる感覚の辛さは変わらないのか、身体が弓形に跳ね上がる。
「ひッ、あーーッ!!あぁ、っああぁぁーー!!」
それと同時に、引き抜いた茎から透明な何かが吐き出された。
ドサッと寝台へ崩れ落ちたレフラの腹が濡れていた。
男が吐き出した精のようなすえた独特の臭いはない。かといって尿臭もなく、肌を広がる様子からはわずかに粘り気があるようだった。
全てを引き抜いたギガイが、握りしめていたイグリアの残骸を投げ捨てた。
床へ捨てられたそれからは、濡れた衣類を投げ捨てた時のような、ベチャッと貼り付く音がする。
しぶとく蠢くそれも、元より虫の息のような状態なのだ。あと一刻をしない内に干からびて完全に息絶えるだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
浅く早い呼吸を繰り返しながらも、意識を保つレフラの身体へギガイが手を伸ばした。
あとわずかで指先が触れる。そんな距離まで手は伸びていた。
だがギガイがその身体へ触れるより先に、レフラが寝返りをうって縮こまる。
まるで腹の上に散ったそれを隠すように。
そして自分の姿さえ、見られる事を拒絶するように。
寝台の上で小さく固まり、シーツへ顔を埋めていた。
ギガイは躊躇いながら、伸ばしかけた指を握り込んだ。
こんな始まりは少しも想定していなかった。
長旅を労る言葉を掛けて、疲れた身体を癒してやりたいと思っていた。不安に感じているだろう心にしても、丸ごと慈しんでやるはずだった。
それなのにレフラの持つ雰囲気そのものが、取り巻く全てを拒絶しているようだった。
「……レフラ」
掛ける言葉に戸惑いつつ、ギガイが名前を呼びかけた。
あの日から心待ちにしていたその名は、本当ならこんな風に呼ぶはずではなかったのに。
守り切れなかった自分がひどく不甲斐ない。
そんな自身の内に湧き上がる感情に、ギガイが不快そうに眉を潜めた。
苛立ちと憐憫の情と、そしてこれは…?
初めて感じるこの感情が何と名付けられるモノなのかが、ギガイには全く分からなかった。
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