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第15 唯一無二の御饌 5 ※
ぼんやりと薄れた輪郭が煙のように揺らいだ後に、今度はその煙が形を作り直し、徐々に人型を取っていく。
身に纏っていた衣や鎧は形状の変化に耐えきれるはずがなく、解かれた変化の下から現れたのは筋肉の隆起がハッキリとした陰影を落とす、何も纏わない引き締まった身体だけだった。
「ひっ…あぁ…ぅあ……」
シーツを捲った途端に隠っていた熱気と花の香りが立ち上がる。それはイグリアの花とは異なる香だった。
清涼な香の奥に酩酊しそうな甘い匂い。
鼻孔が直接刺激されれば、強い酒を煽った時のようにグラリとした目眩を感じるようだった。
触れようとした手を止め、改めて震える身体をジッと見下ろす。
「……アンドロギュヌスか?」
それにしては男としても女としても、性の特徴となるものが欠けている。
だがレフラがどちらの性だったとしても、イグリアの花は咲いているのだ。そうなれば御饌として何の問題もない事だった。
そしてまたギガイはレフラの放つ、煽るような危うい色香に唾を飲んだ。
頬に幾筋も涙が伝った跡があり、閉じきれない口角から垂れた涎で唇は濡れていた。
前を弄われて吐き出したのか、透明な何かで腹の上が汚れている。
唯一の御饌へ手を出され、あまつさえ蹂躙された事実に激しい怒りが湧いていた。
そして、その手折られた花のような姿が哀れだった。
だが、同時にそれでも感じる清廉さと漂う色香との乖離に、更に汚して支配したいといった征服欲が刺激されていた。
「バカな事を……」
あれほど慈しみたいと思っていた御饌を前にして、何を考えているのかと首を振る。
それに今はそんな事よりも、この種を身体の中から取り出さなくてはならないだろう。
乱れて寝台の上に散った髪をそっと撫で、広げた脚の間に身体を射し込んだ。
向かい合う身体に自然と視線が重なり合う。どこまで状況を理解しているのかは、分からない。それでも、重なりあった目にわずかに光が戻った事が見て取れた。
「今から引き抜くぞ」
言葉はハッキリと理解できていたようだ。身体が強ばり耐えるような表情が浮かんでいた。
小さく頷いた事が確認でき、蔓を掴んで奥に埋め込まれた種を取り出していく。
「あっ…痛っ…あーーッ!!あっ…あああっ!!!……っ」
改良された魔種のため、根付く力は持っていない。そのため種と根は容易く身体の外へと引きずられていた。
だが埋め込まれた種は決して小さな物ではない上に、硬い殻に覆われているのだ。それが内部を押し広げながら抉る感覚は、ひどく辛い刺激なのだろう。
「ひぃっっ……、あっ!あーーッ!…っめ…ぇ…っっ……!」
加えてイグリアの根や蔓自体も、ささやかながら抵抗を見せている。
レフラの口から悲鳴とも嬌声とも分からない声が上がり続け涙が散った。
シーツを縋るように握りしめているレフラの指も、その必死さを示すように白くなっていた。
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