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第14 唯一無二の御饌 4 ※
「どけっ!!」
ギガイの発した一言で、医癒棟の前に集った者達が左右に割れる。
減速など一切せずに頭から突っ込んだ扉は、支えるアーチ状の石枠と共に瓦礫となり、扉としての役割を失った。
そのまま最深部を目指し駆け下りる。
変化により何十倍にも感度が上がった五感が始めて嗅ぐ花の香と、嬌声染みた悲鳴を拾う。
その声がレフラの声だと気付いた時には、ギガイの身体は深部に設えた部屋の守りの堅い扉もまた、突き破った状態だった。
「ひぃっ、やぁぁぁ!!やめぇ、あぁぁぁ」
エクストルの身体が重なって、寝台の様子は見えていない。
だが、そこに間違いなくレフラが居るのだろう。寝台の上からは絶え間なく制止を求める悲鳴が聞こえていた。
「エクストル!!貴様!!」
大きく開けたギガイの口がエクストルの肩を骨丸ごと砕きながら咥え込み、破壊した扉の外へと投げ捨てた。
「ぐぅっあーーー!!」
口腔内に広がる鉄の味。
破壊音に続いて衝撃に押し出されたような声と、耳障りな呻きが微かに聞こえてくる。
その他に、この異常事態に駆けつけた医癒者達か。エクストルの呻き声に雑じって、近づいてくる複数の人物の足音がギガイの耳には入ってきた。
振り返ったレフラの姿に目を見開く。
後孔から伸びる蔓が四肢に絡まり可憐な花が開いていた。
身体の内で蠢いている物があるのだろう。
薄い腹の上からその動きがわずかに見てとれる。
「ぃや…いた、ぃ…あぁ、ぁぁ……」
ひとしきり小さな茎の奥まで潜り込んだ複数の蔓もその内部を苛んでいるのか。はみ出た蔓の動きに合わせるように、レフラの身体が何度も跳ね上がって首を必死に振っていた。
イグリアの種。
身体に纏わり付く蔓と柔らかな花弁のその花を、ギガイも知識として知っていた。
その種の動きも花の意味も、厄介さも知っていた。
だからこそ、救い出すには時間が足りない。
とっさに大きな寝台からシーツを剥ぎ取ってレフラの身体を覆い隠して、ギガイは部屋の外へと身体を踊らせる。
もう一度、血を流して崩れ落ちているエクストルを咥え上げ、遠くに姿が見えた医癒者達の方へと投げ付けた。
「連れて行け。それからしばらくはこの場所へは誰も立ち寄らせるな」
今もなお、寝台の上からはレフラの引きつり濡れたような声が上がっているのだ。
レフラはギガイの御饌なのだ。
本来ならば被虐に咽ぶ姿も声さえも、ギガイだけのものだった。
それなのにーーー。
複数の医癒官が打ち棄てられたエクストルの姿に驚いて、一瞬だけの硬直を見せる。
だが、すぐにギガイの言葉に従うべく、その身体を拾い上げ、一礼をして元来た道を引き返していった。
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