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第18 ズレ始めた二人 2
こんな始まりになるとは思っていなかった。
いくら婚礼だとはいってもしょせんは隷属でしかない身だ。盛大な婚礼の儀などあるはずがない、とは思っていた。それでもこんな風に、臣下の者にまで身体を開かせて、検分させるとは思ってもいなかった。
だからと言って、そんな事に泣けるわけもない。
事態を受け入れる以外に選択肢がないのなら、レフラに残された自由はこの状況をどう捉えるかという事ぐらいだ。
吹く風を煩わしいと思う者も居れば、心地良いと思う者も居るだろう。
だけど風は風なのだ。
同じようにこの境遇を果たすべき使命なのだと思えば、レフラは矜持を守っていける。
「子を成すべき御饌として、しっかりと勤めを果たさせていただきます」
そう言ったレフラへギガイの表情が一瞬歪んだ。
不快そうなその表情を目の当たりにしながら、レフラは痛む心から目を反らした。
処遇に涙を流すような、自分自身を惨めな者に貶める事はしたくない。
きっとギガイもこんな不完全な御饌よりは、完全な女性の身体を持った御饌を望んでいるはずだ。それを耐えて受け入れてもらえただけでも感謝するべき事だと分かっている。
どのような態度をとられて、どのような行為を強いられたとしても、不満を抱くべきではないのだ。
決意を固めるレフラの側へ、エクストルの命令で脱ぎ捨てていた婚礼の衣装が落とされる。
「早くその服を着ろ」
視線さえも向けられていないのは、この身体をこれ以上見たくないせいかもしれない。
ギュッと布を引き寄せながら、ギガイの視線を追いかける。その先には、施錠されていたはずの扉の残骸が転がっていた。
そう言えば、始めにここへレフラを案内したエクストルという医癒者はどうしたのだろう。
(何か不興を買ったのだろうか)
外から内へと破壊されたような扉や、目の前に現れたギガイに合わせて消えていたエクストルの姿から、その予測があながち間違っていないと告げていた。
(残忍な長だという噂は、どうやら本当のようですね)
そんな長をこれから相手にするのだ。
子を成すまでは壊される事はないだろうが、その後は一体どうなるだろう。
(命の保証がされるのは、きっと子を産むまではずですが、産むまでは私が私としてさえ生きられない)
それは生きていると言えるのか。レフラは覚悟を決めたように、握った衣をハラリと落とした。
(一日でも早く役目を終える事が、きっと皆にとっても幸せなはず)
だからこそ、レフラはそっとギガイの方へと手を伸ばした。
「本来の順番とは逆になってしまいましたが、このまま抱く気にはなれませんか?」
その言葉にギガイの目がようやくレフラの方を向いた。
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