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第20 ズレ始めた二人 4

唯一無二だと思っていた御饌から吐き出された言葉に、ギガイが愕然と見下ろした。 (もしも、望んだ者が居たならば、その身体を差し出して居たと言うのか!?) 腹の奥が沸き立ち、怒りで目の前が赤く染まるようだった。 そんな事は許せない。自分だけの番なのに。なぜ他へ与えようとするのか。 ギガイにとっては、他の者がレフラへ触れる事はおろか、見る事さえも許す事が出来なかった。 だからこそ、自分の為に着飾ったはずのレフラの姿を、他の者から見えないように馬車の窓さえ閉じてしまったぐらいなのに。 (それなのに、そんなお前の身体をお前自身が触れさせるというのか!?) 唯一と定めた者に、唯一と選ばれない事の苦しさが、ギガイの心を荒立たせる。 しかもそれが、孤独の中で寄り添う者だと言われていた御饌なのだから、培ってきた理性は全く役に立たなかった。 「私は子を成すための存在なのですから、気にされずに抱いて頂いて構いません」 腕を引かれ、艶やかな笑みを向けられる。 イグリアの種に犯されていた時の反応を見る限り、情交に慣れているとは思えない。それなのに明らかに男を誘うその笑みを見て、ギガイは『なるほど…』と心の内で呟いた。 「……孕み族か」 途端に向けられた鋭く冷たい眼光に、凜とした気高いレフラの本質が見える。そして、レフラのそんな反応から、ギガイは自分の推測の確信を深めていった。 あの痴態の中でさえ垣間見られた清廉さも、レフラ個人の本質なのだろう。 清廉さと淫蕩。それは全く異なる二つの在り方だった。 気高く清廉さを抱えながら、その身体を他の者に差し出そうとするのなら、種族として持って生まれた(さが)だとしか思えなかった。 跳び族の持つ蔑称を意識した事は一度も無かった。 愛おしい御饌の一族であり、滅多に会えなかったとはいえ、自分を産んだ母の一族なのだから、目の前で侮る事も許さなかった。 「だが本質を言い得ていた、という事か」 それならレフラの身体が孕み族の性に流されてしまう事がないように、その性を満たす必要があるのだろう。 「もう二度と誰かに触れさせようなど、思わないようにしてやろう」 誰かに肌を許す姿など、想像しただけで胃の腑が焼けるようだ。 ギガイが触れたままのレフラの腕を握り返し、一気に身体を引き寄せる。 ろくに抵抗を感じない程あっけなく、腕の中に華奢な身体が収まった。 一瞬見せようとした抵抗も、早々に無駄だと悟ったのだろう。レフラの身体は全身を強ばらせながらも大人しくなった。

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