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第50 寸刻の微睡み 2
「いい加減、休め」
不意に頭上から降ってきた声にレフラの身体がビクッと跳ねた。
「起きていらっしゃったんですか……」
「お前の方から触ってくるから、誘っているのかと思ったんだがな」
「誘ってなどいません!」
ギガイの胸に触れたのなど、レフラが目を覚めた直後なはずだ。それからずっと起きていたのに黙って様子を窺っていたという事か。その挙げ句に『誘っている』なんて発言になれば、レフラはムッとしてギガイの身体を押しのける。だがいくら押してもその身体は微動だにしなかった。
それどころかギガイの腕が、再びしっかりとレフラの身体を抱え込む。
「起きるには早過ぎる。もし眠れないなら、いつものように疲れさせるか?」
そのまま臀部に手を這わされて、ギガイの指が後の窄みを掠めていく。
「っ!!眠れます!」
押し返していた掌で慌ててギガイにしがみ付き、レフラはギュッと目を閉じた。
「じゃあ眠れ」
ククッと頭上でかすかに空気が揺れたのは、ギガイが小さく笑ったのだろう。そのまま頭をスルリと撫でられて、背中に掌が添えられる。
それは何も気負わない、流れるように自然な仕草。何も計算されていない動きだからこそ、心に響くものがあった。
色を全く含まないギガイの手がレフラへ優しく触れていた。
固く閉じたはずだったレフラの目がその感触に瞠目する。そしてゆっくりと潤んでいった。
優しく寄り添う温もりと、優しいだけの掌に心の奥が震えていた。ただ素直に、その感触が心地良かった。
不意に記憶が蘇る。
人の輪を外からずっと眺めていた、そんな日々の記憶の一つ。何も告げる事が出来ないまま、一人は寂しいと震える幼い頃の自分だった。
『素直で良い御饌で居るならば、大切にする』
ギガイの言葉が、もう一度聞こえる気がした。
条件付きの紛い物の慈しみだとしても、今まで得たことのない愛情だった。どうせ与えられるのも求めるのも、務めを果たすまでの間だけでしかないのだから。
(それなら少しぐらいは良いですよね?)
ためらいながらレフラがそっと身を寄せた。
「どうした?」
休んでいると思われたギガイから思わぬ反応が返ってくる。気まずさに慌てて身体を離そうとしたレフラの身体を、背中に回されていた掌が当たり前のように引き止める。
「…少し寒くて」
「被る物を増やさせるか?」
「いえ、ギガイ様が…温かいので……」
「そうか」
口の中でモゴモゴと、大丈夫だと告げる言葉をギガイがしっかり拾い上げる。
「それなら眠ってしっかり休め」
もう一度強く抱き寄せたギガイの手がレフラの背中を擦っていた。
(温かい……)
その感触を感じながら、レフラがそっと目を閉じた。
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