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第51 丸薬の一夜 1

部屋を満たす青葉の匂い。見上げた大きな窓からは風に形を変えていく白い雲が見えている。大きなソファーに転がりながら、レフラは改めて日数を数えた。 「もう二週間ずっとだ……」 薬を挿入されたあの日から、今日でちょうど過ぎるのだ。すっかりと傷が癒えた身体は快調だった。それに反して日に日に重くなっていく心にレフラは小さく溜息を吐いた。 「傷を癒す為ではなかったんですか……?」 溜息と一緒に消えていった言葉は、ここの所ずっと身体を求めて来ない主に対してのものだ。薬を挿入した翌日にレフラは『ここで身体を癒してろ』と言われたのだ。それを言葉通りに受け止めて療養していたはずだった。 「それともいまだに療養期間だと言うのでしょうか?」 まさか、と微かに口元が歪む。 重傷とは言えない傷にかかる時間など、せいぜい長くて一週間だ。さすがに二週間はかからない。そんな事はギガイにだって分かっているはずなのだ。それなのに、傷が癒えた後もレフラが身体を求められる事はなかった。 痛い思いをしないで済んだと思うにも、子を成すために嫁いだ事を考えれば喜んでもいられない。役目を全く果たさずに平然としているには、この期間は長すぎる。 「やはり務めを果たせない私との行為は煩わしいのでしょうか……」 ろくに他人の体温さえ知らない身体は、抱くには固すぎて手間だろう。それに女性のような柔らかさも無ければ、喜ばせるような技巧だって持っていないのだから、抱いたところで楽しめるような身体じゃない事は、レフラ自身がよく知っていた。 だからと言って主の為に解そうにも、自慰さえもろくに経験した事がなかったのだから。そんなレフラには、自分でどうにかする方法も分からなかった。 「つまらないと感じるところをお願いして、少しずつでも相手を願うしかないんでしょうが……」 経験した内を抉るような痛みへの恐怖が拭えずに、レフラ自身から誘うような事が出来ずにいる。 子を成すための存在が、その行為から逃げ出すなんて話しにならない。 (出来る出来ない以前の問題じゃないですか……) それではダメだと分かっているのに…。レフラは思わず溜息を吐いた。そして同時になぜ?と思うのだ。 (そんな役目も果たせていない御饌と、なぜ共寝をするんでしょうか?) それは、明け方近くなるような夜でさえも同じだった。あの日からずっと続いていて、もう習慣のようにレフラを抱きしめて眠っているのだ。 なぜ抱くわけでもない御饌の元に足を運ぶのか。そして優しい抱擁や掌が、なぜその時に与えられるのか、理由がレフラには分からなかった。 そんなギガイにレフラの戸惑いは積もっていく。 ギガイは言ったはずなのだ。『素直で良い御饌であれば、大切にする』と。今のレフラがそれに該当するとは全く思えなかった。 良い御饌であるにはどうすれば良いのか。二週間が経過する今でも、レフラにはその答えが分かっていない。ハッキリしている事は、務めが果たせないままなら、役立たずで無価値な存在に成ってしまうという事だけだった。 そんなレフラに優しくする意味は? 「……試されているのでしょうか?」 フッと答えが湧いて出る。だけど妙にその答えはしっくりきて、そうか、とレフラは腑に落ちた。

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