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第52 丸薬の一夜 2

今は猶予期間なのかもしれない。 だから至らない所だって今だけは、見逃して貰えてるという事だろう。だってギガイが欲しいのは良い御饌なのだ。今のレフラでは当てはまらない。そして人が変わるにはどうしても時間は必要になってくる。 (それなら、このままだったら……?) その時にはきっと見限られてしまうのだろう。不意に浮かんだその理由が今の状況に一番しっくりくる気がして、レフラが覚悟を決めるように唇を噛んだ。 (頑張って相手をして頂こう。その為にはどうすればーーー) ちょうどそんな事を考えた時だったせいで、扉を開閉する音に肩が跳ねた。慌てて身体を起こして視線を向ける。外の風が乱したのか、青みがかった黒髪を鬱陶しそうに整えながら、レフラへ真っ直ぐに向かってくるギガイの姿がそこにはあった。 服の上からでも分かるような筋肉の隆起が見られる身体に、威風堂々と闊歩する姿。元来の眼光の鋭さもあって、その目に見据えられただけでもレフラは落ち着かない気持ちになる。 まだ策もなく、覚悟さえも決まっていない。 そんなレフラの動揺に関わりなく、前に立ったギガイの腕がいつものようにレフラの身体を掬い上げた。そして下ろされた先が、腰掛けたギガイの膝上なのだから居た堪れない。いまだに慣れない体勢に顔が思わず引き攣りかける。それでももう抗ったり、交渉の時期は過ぎていた。 最後に抗ってみた時の雰囲気で、これ以上はマズいと悟ったのだ。覚えのある雰囲気を急激に纏い始めたギガイは、それはそれは恐ろしかった。あと数秒でも引くタイミングが遅ければ、とんでもない目にあったはずだ。あれ以来、我が身が無事なら関係ないと、身のために成らないような事は諦めていた。 そんなどこか達観したようなレフラの顎をギガイの指先が上向かせる。そのまま落とされる口づけも、もう挨拶に近いものだろう。挿入された肉厚の舌が、ゆっくりと歯列をなぞっていき、舌裏を弄って口蓋を嬲る。それだけでも腰に溜まる熱を感じて、絡まる舌の刺激から、思わずレフラが逃げ出した。 でもそれを簡単に許してくれるような主ではないのだ。レフラが逃れようとすればするほどに、許されずに喉元近くまで塞がれる。気持ち良くて、苦しくて、自分の身体なのに呼吸さえも自由に成らずにレフラの眦に涙が滲んだ。挨拶代わりに落とされるキスにしては濃厚すぎて、慣れないレフラはその都度グッタリとしてしまう。 一通り口腔内を貪られ、今もまた力の抜けた身体をギガイの方へひきよせられた。

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