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第56 丸薬の一夜 6 ※

「反抗心は征服欲を刺激するって事だ」 その状態でギガイの大きな身体が覆い被さり、レフラの身体に陰が落ちる。そこで初めて拘束された状況を悟り、レフラの身体に緊張が走った。シーツの上に縫い留められた身体は、すでに身動き一つできなかった。 だけどそのまま分かったと頷けるような質でもなく。レフラはムスッとギガイを見つめた。 孕み族としてバカにされているわけではないようだが、それでもレフラ自身が男を煽っていると言われている事には変わりがない。 「では従順に媚びていろという事ですか」 反抗心が征服欲を煽るというのだ。求められるのは結局そういう事なのだろうか。 「できるのか?」 「……無理です」 本当は悩む事なく分かっていた。そういう事が素直にできるような性格ならば、今頃レフラはしっかりとした女性体をしているはずだ。 だがギガイの求める良い御饌が、もしも従順に主へ従う者を指したとしたら。その時はどうしたら良いのか分からずに、思わず応えを逡巡する。レフラにはどう足掻いたって成れるようには思えないのだ。だがそれが主が求める御饌ならば、無理だと撥ね除ける事も出来なかった。 希望の者には自分は成れない。そういう相手が欲しいなら他をあたれ。そんな事を言える訳がないのだから。 悔しさと不安とが入り混じる。表情にも出ていたのかもしれない。腕の拘束を解いたギガイがレフラの顔をスルリと撫でた。 「だろうな。安心しろお前にそういうものは求めていない」 クククッと笑ったギガイが「話しは終いだ」と革の袋を取り出した。途端に変わる空気に、レフラの喉が緊張してひゅっと鳴った。 「…本当に、やるんですか……?」 どうか気が変わってくれないか、とレフラが祈るようにギガイを見上げる。だがさっきまでどことなく柔らかく感じたギガイの笑みが、今は酷薄そうに感じられた。金が煙る目が獲物を見据えるように定まっている。 「二度は言わない。口を空けろ」 従う以外の選択肢は、レフラには存在していなかった。分かっていたはずの事だった。レフラに与える責めも許しも、決めるのは全てこの主なのだ。 支配された場の中で、レフラが形の良い唇をギガイの方へ開いて見せる。さっき見た丸薬をまるで蜜玉のように含まされたのは、きっと舐めろという事なのだろう。レフラはそれを素直に舌の上で転がした。 お世辞にも美味しいとは言えない丸薬だった。緊張で渇きがちの口の中で、どうにか涎を纏わせる。蜜玉を食すように繰り返し口腔内を転がせば、少しずつ水気を含んで溶け出したのか。トロリとした粘度が広がっていく。 「そろそろ良いか」 状態を確認するようにギガイの指を含まされ、滑り気を帯びた丸薬を口腔内から摘まみ取られる。ギガイの持つ丸薬とレフラの唇が細い粘糸で繋がった。自分の身体を苛む物を自分自身で準備する。それを見せつけられた気がして居たたまれず、レフラは目をそっと背けた。 口腔内に溜まった唾液を飲み込んだせいなのか。胃の辺りからじんわりと熱が身体に広がっていた。 抜き取られた丸薬が、まだ固く閉ざされたレフラの後孔へ宛がわれる。滑りを帯びた丸薬は、抵抗なくツプリと中へ収まった。痛くはない。痛くはないが、慣れとはほど遠い身体なのだ。後孔の違和感はレフラにはすでに辛かった。

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