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第55 丸薬の一夜 5

まだ日の高い時間だった。幾重に重ねられた紗幕を貫き、陽光は寝台を明るく照らしていた。何一つ隠せるような影のない部屋の中。纏った衣類をパサッと落として、レフラが生まれたての姿になる。その白磁の肌を俯いたレフラの白金の髪が、わずかに覆い隠していた。 これから薬を使うと言っていた。娼婦でさえも善がるようなキツい薬だと教えられた。ギガイの手で快楽を与え続けられた初めの時でさえも辛かったのに、薬を使われればどうなるのだろう。 まだ始まってさえいない淫辱の苦しさを思うと、重たいものが腹の内に積もっていくようだった。今日はどれだけ耐えればいいのか。不安にレフラは視線を彷徨わせた。 「お前の雰囲気は危ういな。新雪を踏み荒らしたくなるような気にさせる」 緊張の中、ギガイの言葉が耳を滑る。何を言っているのか分からない、とレフラはわずかに小首を傾げた。 声音はこれまでレフラを組み敷いたどの時よりも、暖かい響きを持っている。絡み合った目の奥も、身が竦むような赤みがかった茶色ではなく、いつもの琥珀色を湛えていた。それだけでも、レフラを少し安堵させる。 だがそんな事とは別に。 「男の嗜虐心を煽るという事だ」 聞こえた言葉にレフラは初めて出会った日のように、ギガイを思わず睨み付けた。 レフラには男を誘っているつもりはない。それなのに、煽っているとなぜ言われるのか。レフラにはその理由が分からなかった。 (孕み族としてバカにしての言葉でしょうか?) ギガイの表情からも言葉の裏までは読み取れない。だけど告げられたその言葉は、孕み族として侮られる事を何よりも嫌うレフラにとって、気持ちをひどく逆なでた。 「まだそんな表情を向けるのか」 その言葉に『素直で良い御饌であれば大切にする』と言われた事を思い出す。 (でもこれだけは…) 譲れないし、譲りたくない。 だがこの主の機嫌を損ねた時に受けた淫虐は、記憶だけでも身体を竦ませる。レフラは葛藤しながらもギガイを睨む視線を外した。ただし精一杯の抵抗で、悔しそうに表情を歪めて。 (これでも咎めるというならばやればいいんです) そんな捨て鉢染みた思いもあった。 だが、特にギガイからは苛立ったような様子はない。むしろどこか楽しそうにさえ感じられる雰囲気だった。ただし幼子が無邪気に弱い動物を甚振る時のそれに近い気がして、レフラはコクリと生唾を飲む。 「なぜ怒る?これはお前への忠告だぞ。煽られた男にそういう目を向ければ逆効果だとは思わないか?」 「逆効果?どういう事です?」 言った途端、レフラの身体が寝台へと押し倒される。柔らかなマットが身体を跳ね返すよりも先に、大きな掌がそのままレフラの両腕を一纏めに拘束した。いったい何が起きたのか。状況についていけていない、レフラが目をパチパチと瞬かせた。

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