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第54 丸薬の一夜 4

「だから、この薬を利用する」 冷えた指先を握り返したギガイの掌が暖かかった。最悪の自体を回避できた事にホッと力が抜けかけたレフラの耳に、ギガイの口元が寄せられる。 「慣れた娼婦でもよがり泣くような薬だ。この薬ならお前の固い窄みだって解けるだろう」 見せつけるように革袋から取り出されたのは、直径二センチ大の丸薬だった。嚥下するには大きなサイズはいったいどこで飲み込む物か。そして語られたその内容にも、レフラの安堵感などすでに彼方に飛び去っていた。 「一度でも奥で快感を覚え込めば早いからな。まずは身体で覚え込め。まあ、意識せずとも叩き込まれるだろうがな」 「…そんな、薬は、止めて下さい…ギガイ様…他の方法で、どうにかお願いします……」 「なぜだ。お前が早く子を成したいと言うから、要望に応える為に取り寄せた薬だ。それに薬の負担も考えて、身体も十分休ませたはずだ」 その言葉に身体の中から力が抜けて、レフラは目眩がするようだった。 まただ。『お前が望んだ事だ』その言葉でこれまでに受けた仕打ちを思い出す。確かにレフラ自身が軽率に招いてしまったような事態だった。だがその度に言葉の責任を取らされるように責め立てられたレフラの心はボロボロだった。 制止を望む言葉さえ吐く事が出来ないままで。そのまま自分の愚かさをさんざん身体に教え込まれて。もう十分反省をしたはずなのに、いまだに足りないと言うのだろうか。小さく震える指先で袋を持つギガイの手をギュッと握った。 (あれから意地を張ってギガイ様を不快にさせたりもしていないのに) もうあんな目に合うのはいやだった。 「もう早く何て言いません。お願いですから、ゆっくりやって下さい……」 素直であれば優しくしてくれると言っていた。望みを託して縋ってみる。 「そうか、ゆっくりで良いならそうしよう」 手慣れた娼婦でさえも乱れるような薬をレフラが堪えきれるとは思えなかった。鷹揚に頷いたギガイの姿にホッとする。 「だが、次回からな」 続けて聞こえたそんな言葉に、レフラの顔はくしゃりと歪んだ。一度安心させておいて、再び絶望へと引き戻すのだ。ギガイにはそういう事が度々あった。 最後は素直になった分だけの手心を加えて貰えるかもしれない。それでも。一度浮上した分だけ、叩き付けられる心の落差はレフラの心を折るには十分だった。ゆっくりとレフラの青い目が潤んでいく。 「御饌として、立派に務めを果たすのだろう」 そんな風に言われたら、もう拒絶の言葉なんて言えなかった。コクリと頷いたレフラの髪が掻き上げられて、露わになった額にキスが落とされる。 「ここで脱ぐか、寝台へ行くか、どっちが良い?」 耳元で囁くギガイの唇が、そのまま耳殻を銜え込んだ。吹き込まれた質問は始まりの合図だった。 「ここはイヤです……」 本当はどちらだろうと、薬を使われるのは怖いのだ。そんな心境から、寝台が#良い__・・__#とは言えなかった。ギガイにはそれさえもお見通しなのか、ククッと小さな笑い声が聞こえてくる。 「それなら向こうへ連れて行ってやろう」 レフラの重さなど全く感じていないのだろう。軽々と片腕だけで抱き上げて、ギガイが寝室の方へと歩き出した。

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