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第59 丸薬の一夜 9
そのまま膝の上に抱えられる。さんざんレフラを甚振っていた手も何度も背中を撫でていた。そして差し込むように痛む下腹へも大きな掌が添えられて、じんわりとギガイの熱を分けていく。
ゆっくりと広がっていく温もりが、蠕動の動きを和らげて、レフラの心を宥めていった。
レフラがキュッとギガイの胸元を掴んで身体を寄せる。初めの頃は恐る恐る求めた温もりだった。だが求める都度与えられたその体温は、心地良さとあいまって求める事への恐れを無くしていった。
小さく笑った気配と共にギガイの腕がレフラを囲う。トントンと背中を叩かれながら、聞こえてくるギガイの心音にレフラの心が凪いでいく。
「どうだ落ち着いたか?」
レフラを楽しそうに甚振っていたのもギガイだったはずなのに、癒す腕もギガイなのだ。理不尽とも思える状況だが、嬲るも慈しむも主の心一つなのだから仕方がない。
本来なら隷属として屈辱的な扱いだけを受ける可能性だってあるような身だ。それをこうやって愛しんで貰えるのなら、まだ幸せな日々なのだろう。
だからこそ。この後の行為もレフラはただ堪えきるべきだと分かっていた。どれだけこの温もりに包まれた心が、この後の淫虐へ怯えていたとしても。やると決まってしまった事ぐらいは、自分から受け入れなくては。レフラは気持ちをどうにか奮い立たせた。
ギガイから御饌として愛しんで貰える間、レフラも精一杯、御饌として役目を果たす義務がある。これは黒族と跳び族の対価に基づく関係なのだから。
「はい、申し訳ございません。お手を煩わせました……」
改めて思い返せば、傷付けないよう気遣いながらも早急さが見える挿入だった。本当はあまり時間がなかったのかもしれない。ただ薬が効くまでの時間が必要だったから、事前にレフラへ与えに来たのではないか。
(それなのに、こうやって宥めて頂く時間まで取ってしまった……)
申し訳なさにレフラがそっと身体を離す。
「煩わされた事など何もない」
やはり急いでいたのだろう。気にするな、とレフラの身体に肌触りの良い掛け布を被せながらも、そのままギガイが寝台から立ち上がった。
「二時間ほどでまた来よう」
視線だけで、他には?と聞かれてレフラがゆるく首を振った。これ以上、子を成す為だけの自分が主の予定を狂わせる訳にはいかなかった。
レフラはキュッと掛け布を握り締める。
口腔内から図らずも飲んだ薬も、溶け出しているであろう後孔の薬も、今はまだほのかな熱さを伝えてくるだけで効果はない。あれほど辛かった蠕動もギガイの掌の温もりで、今はすっかり治まっている。
だが、いつ現れるかも、どれぐらいの効果なのかも分からない薬をここで耐えるのだ。最低でも二時間はこのまま独りで。薬の効果として、その時間が長いのか短いのかは、今のレフラには分からなかった。それでも不安を抱えて待つには長いはずだ。
ギガイは七種族の頂点の黒族の長だ。多忙さは日々の様子で見て取れる。予定通りに事が進むとは限らないだろう。
もしも戻って来られなければ。その時は自分はどうなってしまうのか。日頃は忘れていられている感情が思い出されて、レフラはあえて背筋を伸ばした。
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