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第116 静寂の宮 5

「大丈夫ですよ、噂ほどは怖い方ではないですから」 確かに不興を買ってしまった時のギガイはレフラでも怖くて仕方がなかった。それでも基本的には誰よりも優しくレフラを慈しんでくれる主なのだ。端から見ててもあまりに無茶ぶりをされている様子の3人へレフラが安心させるように微笑んで見せる。 「いえ、レフラ様。ギガイ様のレフラ様への対応とその他の者への対応は雲泥の差がありますので、あまり参考にも成りません」 苦笑交じりに返されたリュクトワスの言葉に呆気に取られた瞬間、ガチャッと扉の開く音が耳に届いた。 バッと背後を振り返った3人の顔が途端に青ざめて、慌てて頭を下げる。 噂をすれば影がさすとは確かに言う。だが相手は多忙なギガイなのだ。いつも宮へやって来る時間とは違いすぎて、まさかのギガイ自身が現れるとはレフラも思っていなかった。だが突然の状況に唖然とするレフラと3人とは違いリュクトワスだけは予想していた事なのか、その中で平然と軽く一礼をしただけだった。 部屋に入った瞬間から、目線が険しくなっていたギガイがリュクトワスへハッキリと鋭い視線を向けていた。 スタスタと中へ歩みを進めるギガイからは、レフラが日頃感じた事がない威圧感が滲み出ていて息を飲む。リュクトワスが言っていた『雲泥の差』というモノを、レフラは思わぬタイミングで知る事となって焦り出す。 レフラが冷たいと思ったギガイの威圧感さえ、まだこれよりはマシだった。 リュクトワスの側まで進んだ瞬間、突然ギガイがその胸ぐらを掴んでグイッと身体を持ち上げた。その掌にはどれだけの力が込められているのか。 「グッ!!」 一瞬リュクトワスの表情が苦痛に歪む。成り行きを見守っていた3人からも、息を飲む音が鋭く聞こえてきた。 「どういう事だリュクトワス。なぜ頭を上げていた」 「違うんです!!ギガイ様!!私が無理矢理お願いしたんです」 顔色を真っ青にして慌てて駆け寄ったレフラが、リュクトワスを掴んだギガイの腕にしがみつく。ただリュクトワスだけはこうなる事を予測していたのか、わずかに苦しそうな表情を浮かべながらも特に慌てる様子もなくギガイの方に向き合っていた。 「申し訳ございません。決して侮っての事ではございません。ただレフラ様がご不安を訴えておりましたゆえ、低頭を解いて対応させて頂いておりました」 「レフラが不安を?どういう事だ?」 リュクトワスへ向けられていた眼光の鋭さが和らぎ、訝しげな色が浮かんでくる。まさか自分のワガママがこんな状況を引き起こすとは思ってもいなかったレフラは、ギガイの腕にしがみ付きながら何度も首を振っていた。 「本当なんです。だから、お願いです。リュクトワス様を離してあげて下さい」 レフラの方へ向き直れば、ギガイの眼差しはスッと鋭さを潜めて柔らかな色へと変わっていく。そのままリュクトワスを捕らえた手とは反対の掌でスルリとレフラの頬を包み込んだ。こんな時なのに温もりも感触も、レフラへ対してだけはいつものように優しかった。

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