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第127 静寂の宮 16
「大丈夫ですよ。御饌様がギガイ様を恐れる必要はございません」
「いえ、いえ!!違います!!ギガイ様が怖い訳ではございません!」
「は?」
何か変な事を言っただろうか。その瞬間におかしな表情を一斉に向けられたレフラは、震えが止まらない身体をますます緊張させた。
「も、申し訳ございません。こんな姿では説得力がないですよね…でも本当にギガイ様が怖い訳じゃないんです…」
意地悪な事も多いけれど、レフラへ優しさや温もりを与えてくれたのはギガイだけだった。信じて欲しいと想う強さのままに、握られたままだったギガイの手をギュッとレフラは握り返す。節の目立つ大きな手は温かく、カサカサと少し乾いていた。
「そうなのか」
「はい。ただ…どうしても跳び族は兎を祖に持つので…ギガイ様の威圧は本能的に怖くて……」
「それなのに私自身は怖くないと?」
「はい、ギガイ様はお優しいので……」
「私にそんな言葉を言うのはお前だけだな」
側に控えた者達も同じような意見なのか、もう何度目か分からない唖然とした表情がレフラの方へ向いていた。そんな中でフッとギガイがかすかに笑う。
「冷酷無慈悲だとは、よく言われているようだがな」
「…覇王でいらっしゃるギガイ様ですので、時には無慈悲と思われる決断も必要だったのだと思っています」
ようやく震えが治まり始めた身体で、レフラはそう言いきった。黒族長であるギガイと同じだとは言えなくても、レフラだって跳び族の長子として村を護る為に思ってきた事は色々あるのだ。
力こそ全てのこの世界では、優しさだけでは治めきれない事だって多いはずだ。そんな中で七部族の長として立つギガイの冷たい世界は、誰にも理解してもらえない孤独な世界なのだろう。病中に感じた悲しさを思い出す。
「ただ真意はギガイ様にしか分からない事なので……私は私が知っているギガイ様を信じております」
隷属の身でさえ、こんなに愛しんで貰えて、幸せな日々を過ごさせてくれている。本当に慈悲が無いのならレフラへ与える優しささえなかったはずなのだから。
だからこそ。あの日に臣下へこの身体を開かせた事でさえも、きっと必要な事だったのだと。レフラは縋るように思っていた。
それは都合の良い思い込みかもしれない。それでも日々向けられるギガイの優しさに、あの日の行為が結び付かないのも事実なのだ。
(だから、きっと何か理由があるんですよね……)
今でも思い出せば心が張り裂けそうになるけれども。
「そうか」
見下ろしてくる目の柔らかさと、撫でる手がやっぱり温かくて優しいのだ。その温もりが心を真綿のように包んでいく。
「はい、なのでギガイ様が怖い訳ではありません」
レフラの目をリュクトワスが真っ直ぐに見つめ返していた。それがレフラの本音だと信じてもらえたのだろう。一瞬和らいだように見えた目は何かに安堵したようだった。
「失礼致しました」
だけど頭をそのまま下げてしまったリュクトワスからは、これ以上の確認は行えなかった。
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