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第129 静寂の宮 18

そんなレフラを前にギガイが「はぁーっ」と大きな溜息を1つ吐き出した。 「ここに来てずっとか……」 「は、い…何か、問題があったでしょうか……?」 この部屋は自分の為に設えた部屋だと聞いていた。一度もここに居る事を咎められた事はなかったはずだが、本当は禁じられていたのだろうか。 いつもと違うギガイの様子にレフラの不安が高まっていく。そんなレフラの様子に気が付いたリュクトワスから声が掛けられた。 「レフラ様、ご安心下さい。レフラ様の行動に問題があった訳ではございません」 どこか呆然とした様子だったギガイがリュクトワスの声と共にレフラの方へと目を向けた。 目が合った瞬間にようやくレフラの状態に気が付いたのだろう。いつもなら目敏くレフラの様子に気が付くギガイが、リュクトワスの言葉にハッとしたようだった。 「あぁ、お前のせいではない。心配する必要はない」 重なった濃褐色のような深みのある目。いつもと違う色に染まった光彩は、なぜだかギガイの心が沈んでいるように見えてくる。 (もしかして、落ち込んでいらっしゃる?) 黒族の長であるギガイがまさかとは思う。そう思いながらも、なぜかレフラはその直感を否定できなかった。 「…なるほどな、盲目でいる状態では、盲目だという事にさえ気が付かないということか…今さらそんな所で躓くとはな……」 何の事を話しているのか、レフラには分からなかった。ただ自分の事に関係する事だけが分かっていた。戸惑っているレフラの頬に片手を添えて撫でながら、ギガイがもう一度大きく溜息を吐き出した。 「時としては第三者の目で気付く事もございます。古来より恋慕の情は目を曇らすと言いますので」 リュクトワスの言葉が始まりとなった状況なのだから、リュクトワスは当然この状況をしっかり把握しているようだった。 「この立場で説教をくらうとはな」 「とんでもございません、失礼致しました」 「…いや、私が気が付いていなかった事は事実だ。助かった。礼を言おう」 本能から揺さぶられるような威圧は鳴りをひそめ、レフラへ向けている苦笑のままの柔らかな空気をギガイが纏う。 この状況に自分がどう関わっているのだろう。だけど関わっている何かがギガイにここまでの影響を持っているのだとしたら驚きだった。 「お前のいう通り他の者の存在が必要な時もあるという事だろう……お前が選定した者達ならば、ここでのある程度の振る舞いを許可しよう。レフラを支えてやってくれ」 「承知致しました!!」 ギガイの言葉に頬を赤らめた3人が勢い良く返答する。その姿を確認したギガイがレフラを抱えたままおもむろに立ち上がった。 「だがリュクトワス、お前なら黒族の長に対する御饌が、唯一無二の価値を持っている事を知っているはずだ。これはあくまでもレフラへの為だ。根底は変わらん。何かあればその時は分かっているな」 「もちろん存じ上げております」 「その点はあの3人へもしっかりと教え込んでおけ」 リュクトワスの側を通りかかった瞬間に牽制するようなギガイの言葉は、鋭利な刃を思わせた。スッと表情を改めて頷くリュクトワスを横目にギガイが扉の方へ歩いていく。 「今日はもう良い。明日以降は今日と同じ時刻に顔を出せ」 そしてレフラは抱きかかえられたまま部屋の外へと連れ出された。

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