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第153 揺れる足元 6
頬へ添えた手を握り返され、フワッと微笑みが向けられる。一見すれば甘えているように見える姿にギガイは心の中で溜息を吐いた。
(告げたのは失敗だったか…)
甘えながらも視線が外れた一瞬だけ垣間見える陰った瞳。最近のレフラに多く見られる姿だった。
(確かに我慢をする時に甘える雰囲気が消えるとは告げたが、甘えてみせればごまかせるという事でもないのだがな)
ギガイにとっては我慢したところでどうせバレる事だと、隠す事の無意味さを伝えたつもりだった。
「…何を堪えている?私はたった今、堪えるなと告げたばかりだぞ」
外れた瞳を向け直させて、真っ直ぐに眼を覗き込んで確認する。
「何も堪えておりません」
なぜそんな事を聞かれているのか分からない、とでも言うかのように、戸惑ったような表情をレフラが浮かべて見せた。
(ごまかす気か…)
下手をすればギガイを侮っているとも取れる態度だ。他の者ならば容赦をしない状況だった。
だがレフラ自身にそんな気がないことは分かっているため溜息1つで見逃しつつも、「堪えるな」と告げたそばからの姿に問い詰めたい気持ちがどうしても燻っていた。
常と変わらない様子ならそうしただろう。
だがククの樹の下でハッキリと違和感を感じたレフラの様子は、安易に問い詰めることを警戒させた。
(それにこの頑なさでは、闇雲に問い詰めたところでこれまでと変わらないだろうからな)
原因も伝えられずに『聞かないで』と泣かれてしまうぐらいならば、原因をあばいた上で泣かれる方がギガイにとってはマシなのだから。
「……素直には告げる気はないと言うことだな」
「本当に何もないんです」
「分かった、それなら良い」
不安げに曇り始めていたレフラの顔が、ギガイの言葉に安堵の表情を一瞬浮かべた。
きっと追求から逃れきれたと思っているのだろう。だがギガイにとっては、明け透けにしか思えない態度なのだ。そんな態度で何を隠そうとしているのか。
ふぅ、と溜息を吐いてギガイがレフラの頭をポンポンと叩いた。
(どのみち泣かれるのなら、私の手の内で泣いてもらおう)
手の内にさえ抱え込めれば、ありとあらゆる方法を使って憂いも除ければ、癒しもできる。だからそれまでは黙っているに過ぎなかった。
「とりあえず、あの者達には時間を遅らせる。だから、しばらくは部屋にいろ。こんなお前を私以外の者が見たとなれば、そいつを処分したくなる」
「ほん、き、ですか?」
「あぁ、もちろん本気だ。だからあの3人のためにも、この本でも読んでしばらくは大人しくしていろ」
「あっ!!これは!!」
引き攣った表情をしていたレフラが、ギガイの差し出した本に目の色を変える。
「探していたのはこの本だろう?」
「はい、そうです!どこにあったんですか?」
「ついさっき見上げた所にたまたまあった」
本当はずいぶん前に見つけていたが、共に探すレフラとの時間欲しさに、わざと告げなかった事はとりあえず黙っておく。
「で、こんな園芸の本をどうするんだ?」
娯楽として読むには面白い内容とは思えなかった。何のために、とギガイが首をかしげて見せた。
「宮の裏に植えてみたいんです。今日道具を持ってきて頂けることになっていて……ダメですか?」
「お前がか?」
最近では少しでも気が晴れるなら、と宮の周りだけなら誰かと出ることを許していた。
レフラに関することで、自分が知らない予定があったことに気持ちがささくれ立ちながらも、期待するように本を抱えたレフラ相手にダメだと言うことはできなかった。
「構わないが…とりあえずケガをしないよう気をつけろ」
「はい!実がなったらギガイ様にも差し上げますね!」
嬉しそうに笑うレフラにギガイは仕方ない、と波立つ気持ちを飲み込んだ。
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