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第157 揺れる足元 10

「お声を上げて笑う姿は始めて拝見しましたが、楽しんでいただけてるなら良かったです」 「あの…申し訳ございませんでした」 「何がですか?」 「私のワガママにお付き合いさせてしまって」 本来の武官としての仕事からは全く外れた作業なのだ。レフラが改まって頭を下げる。だがそんなレフラにあははと笑ったリランがとんでもないと否定した。 「先ほど申し上げた通り、通常ギガイ様はそばに非常に限られた臣下しか置かれません。それなのにこうやってギガイ様が唯一無二とされているレフラ様へのお仕えを任されるのは、信頼を頂いているようで私達には名誉ある事ですよ」 「リランの言う通りです。それに今はレフラ様の護衛を拝命されております」 「レフラ様の直属の臣下となりますから、気にされず何でもお申し付け下さい」 いつの間にそばに戻って来たのか、ラクーシュとエルフィルの追加の言葉にレフラは開いた口が塞がらなかった。 「えっ??護衛?えっ、直属??ご用聞きではなくて??」 「はい、ギガイ様から聞かれておりませんか?」 不思議そうなラクーシュにレフラがコクコクと頷いた。 「私の直属なんて、そんな……」 あまりの申し訳なさにうろたえるレフラも「我々では力不足でしょうか?」と言われてしまえばもう下手に遠慮もできない状況だった。 「お役に立ってみせますよ!ほらこのとおり!!」 「あっ、お前はまたフライングを!」 「この筋肉バカ共!細かく耕せば良いわけじゃないと言ってるだろ!!」 とたんに騒がしくなった3人に、またクスクス笑いながらレフラも地面を耕していく。だが久しく剣も握っていなかったレフラの手には負担が大きかったのだろう。 「イタッ……」 早々に出来てしまっていた豆が潰れて皮が剥けてしまっていた。 「大丈夫ですか!?」 慌てたように確認する3人は気が気じゃないと分かっている。それでもその掌を見ていると、こみ上がってくる笑いをレフラは抑えることができなかった。 「レフラ様?」 「も、申し訳ございません。何だかとても楽しくて」 「痛くはないのですか?」 「痛いことには痛いんですが、今までは御饌として嫁ぐ身だからと何もさせてもらえなかったので、こんな経験も始めてなんです」 フフッと笑いながら握ったり開いたりと手の動きを確認すれば、引き攣るような痛みが走っていく。そんな掌も痛みも新鮮でレフラはもう一度小さく笑ってしまった。 だがギガイより護衛を任されている3人にはそれでは済まない状況なのか、レフラへ困ったような表情が向けられたときだった。 「こんな所でやっているのか」 いぶかしげな低い声が聞こえてくる。 その方向に目を向ければ、声音と同じように不可解そうな表情を浮かべたギガイがこちらへ向かっていた。 「ギガイ様!」 あっ、とレフラが名前を呼んだのと、3人が一斉に片膝をついて頭を下げたのは、いったいどちらが早かったのかは分からない。 そんな3人にかまうことなく近付いたギガイが、レフラをいつものように抱え上げた。 わざわざ様子を見に来てくれたのだろう。 いつもなら昼餉以降に上に戻った時には黄昏前か、夕餉の頃にしか一時的な戻りもない状況なのだ。そんなギガイの気遣いが嬉しくて、弾んだ気持ちがいっそうふわふわと温かくなっていく。 直近で重なった瞳に思わずレフラの口からクスクスと笑いが漏れた。そんなレフラの雰囲気につられたのか。 「楽しそうだな」 眉をしかめて場所を見回していたギガイの表情が和らいで、口角を上げるように微笑みが返ってくる。 「はい、楽しいです!ただ…」 笑いながら差し出した手に、レフラが思わず苦笑した。脆弱としか言えない柔い肌が恥ずかしかった。 「下手くそすぎて、さっそく豆が出来てしまいました」 そんなレフラの目の前で、ギガイの柔らかな表情がスッと消えて冷たくなっていった。

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