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第172 誤りを正して 5
「医癒官を宮へ呼んでおけ、戻り次第レフラを診せる」
「かしこまりました」
ラクーシュが一礼して下がったのを確認し、ギガイが壁際で唖然とした顔で見上げてくる男達のそばへ近付いた。
「ぐはっ!!」
腕の中のレフラへ震動が響かないように気をつけながら脚で思い切って蹴り上げれば、呆気なく男の巨体が反対の壁に激突する。
「ひっ!!」
もうひとりの男がその仲間の姿を見て怖じ気付いたのか、青い顔でギガイの方ーーいや、腕に抱えられたレフラの姿を見上げていた。
「これがレフラを傷付けたナイフか」
しゃがみ込んで床に落ちていたナイフを拾い上げる。
「あっ、いえ、ほ、本当に傷付けるつもりはなかったんです!ただそいつがムリに動いちまってーー」
「ほう、それならレフラが悪いと言うのか」
「そ、そんなつもりではーーぎゃああ!!」
腹立たしい目を向ける顔に向かってナイフを振るう。途端にうるさく上がった声がひどく耳障りだった。
だが腕の中で固まっている様子のレフラには、あまりに刺激が強かったのかもしれない。仕方ない、と手に持ったナイフを床へと投げ捨ててギガイが外へ向かって歩き出した。
「こいつらをいったん表へ出せ」
建物の外には近衛隊と警備隊の臣下が膝を付いて控えていた。それを遠巻きに民が見守っている。
その中に無理やり引きずり出され、跪かされる男が2人。すでにボロボロな様子にざわめき立っていた人の輪がシーンと静まり返っていく。
「とりあえずこいつらを殺せ」
「ギガイ様、待って下さい」
レフラがギガイの服をクンッと引いた。
「…まさかこんな奴らの命乞いか?」
「いえ、そうではございません。ただ、私怨でギガイ様の統治が乱れる事が心配です。それは私怨ではなく掟に従った処罰ですか?」
レフラの不安げな表情からギガイを心配している事が伝わってくる。そんなレフラの頭に大丈夫だ、とキスをしたギガイの耳に今度は不快な声が聞こえてきた。
「ギガイ様、私ども紫族の者が何か致しましたでしょうか?」
紫族の族長代理として祭りの為に最近常駐している男だった。
「その場合でも、基本的に他種族間での争いはその種族間での解決なはず。黒族長であるギガイ様の手を煩わすほどではありません」
この場を解けと暗に言ってくる男へギガイが凄絶 に鋭く冷たい目を向ける。
「黒族の地で私の民を損なった場合、いかなる理由でも排除の権利は私が持つのが掟なはずだ」
「ですが、その腕の中の方は黒族の方にはお見受けできませんが」
「これは私に嫁いだ私の寵妃だ。それを私の民ではないと愚かにも告げるのか?」
「あっ、いえ、そんなつもりはございません」
「ならば、この者達の排除の権利は私が持つはずだ。それとも何だ。この者達の雇い主として、貴様がその責を負うというのか?」
「いえ、そんな者達は知りません!そのようなご理由でしたらどうぞギガイ様のご随意に」
概ねのところ、跳び族ごときとのいざこざで金を使ったはずの傭兵を失うことが納得いかなかったのだろう。そそくさと引き返すその背をギガイが冷たく見やる。
「私は戻る。こいつらの処理は任せる、結果だけを持ってこい。あと、あの男の解任の圧を紫族へ掛けておけ」
そばに居たリュクトワスへいつも通りに指示をして、ギガイが宮に向かって歩き始める。腕の中のレフラへ視線が集まっていた。その視線から隠すように、ギガイがレフラの布を引き上げた。
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