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第171 誤りを正して 4

跳び族のレフラの抵抗など片手で十分なのだろう。 必死に抵抗を繰り返すレフラの身体を、頭上に回った1人が口を封じながら抑え込む。 その姿を身体をまたぐようにして見ていた男が、にやにやと笑いながら首元にナイフを突きつけた。 「大人しくしてりゃ、殺しまではしねぇさ。どうせお前ら孕み族にとっちゃあ、3度の飯と同じ程度のことだろう」 「そうそう、気持ち良く啼いてればあっという間に終わるんだから、下手な抵抗は止めとけよ」 その手慣れた様子は今までもさんざん繰り返してきた行為だと物語っていた。そしてそんな経験から男達の中では、ナイフで身が竦んで従順となったレフラを一方的に弄ぶ、そんな計画になっていたのだろう。 気持ち悪い笑みを浮かべて拘束の手が緩んで、レフラの服に手がかかる。服を裂かれた瞬間と身体を大きく捻らせながらレフラが声を張り上げたのはほぼ同時だった。 「ギガイ様!!」 逃げ出したのは自分なのに、こんな風に縋ってしまう身勝手さがいたたまれなかった。 でもまさかこんなことになってしまうとは思っていなかったのだ。 胎が穢されてしまった瞬間、レフラにとっては全てが終わってしまう。 御饌としての価値がなくなって、供物として育ちながら一族を守るために子もなせず、ギガイのそばにいる許された期間さえ失ってしまう。 そんな未来のために、生にしがみつく意味がレフラの中には見えなかった。なんの脅しにもならないナイフがレフラの首筋を傷付けたのか、熱が走った後に鉄の匂いが広がった。 「うるせえな!お前が呼んだところで何になる!?あの黒族長がたかが跳び族のお前を助けに来るとでも思ってんのか?」 男の拳が振り上がったのが見えて、レフラがギュッと目をつぶった。だがその直後に聞こえたのは頬を殴られる殴打音ではなく、固い物が壊される破壊音の方だった。 音を知覚するのと同時に、レフラの身体が感じていた不快な男達の感触や熱が一瞬で全て消えていた。 目を開ければ、横たわるレフラを守るように、牙を剥いた巨大な狼がレフラの身体をまたいでいた。 「レフラ様!!」 うめき声に重なるように聞き慣れた声がいくつも聞こえてくる。駆け込んできたリュクトワスと3人が息を飲む音が聞こえた後にフワッと身体が掬い上げられた。 「服と大判の布とタオルをいくつか持って来い」 「ギガイ様の服はこちらに。あと布はこちらの掛布でよろしいでしょうか?」 「タオルもお持ちしました!」 リュクトワスと3人からそれぞれ必要な物を受け取ったギガイがレフラの傷口にタオルをあてる。そして掛布で包んだ後にその身体をそっと腕に抱え込んだ。 (良かった…ギガイ様だ…来てくれて良かった…) もうダメだと思っていたから。 ホッとして、本当はすごく泣きたかった。 でも事の発端は自分が逃げ出したせいなのだ。そこまで分かっていて泣くわけにはいかないと、レフラは奥歯を噛み締めた。 「戻ってからすぐに治療してやる。今はこのまま少し目を閉じていろ」 「はい……」 もたれ掛からせるように引き寄せられて、レフラがキュッと袂を握る。そしてそのまま目を閉じた。

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