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第178 誤りを正して 11

思わず漏れたうめき声にレフラの顔が青ざめる。 「ギ、ギガイ様!? そう言えば、これ、ど、どうしよう…」 右往左往するレフラに落ち着けとギガイが苦笑を浮かべて見せた。そのまま腰に付けた小袋の中から青色の玉を1つ取り出し火を点ける。途端に立ち上がる一条の青い煙にレフラが目を瞬かせた。 「どうせ近くにやつが居るだろう」 ギガイの推測通り、数分も経たない内にリュクトワスと3人が駆け寄ってくる。 「ギガイ様、おケガは!?」 「お前はケガをしていることを前提に、この私に聞くのか」 ギガイの言葉にリュクトワスの顔に一瞬、あっといった表情が浮かぶ。 日頃から聡く状況認識に優れた側近は、何となく事態を把握していたのだろう。こうやって駆けつける早さに加えて折れた短剣から見ても、水面下で策を張り巡らせていたことが見て取れる。 その分そんな飄々とした策士が最後の最後で掘った墓穴がおかしかった。クククッと痛みに眉を顰めながらも笑う姿にリュクトワスもわずかに苦笑した。 「私は丈夫な剣を誂えろと言ったはずだが」 「それではギガイ様のお身体がそれを上回る丈夫さだったということでしょう」 あえて折れるように加工された短剣を渡しておいてうそぶく男の図太さはなかなかのものだ。 ギガイの側近として共に先代の長を葬った男だ。黒族長が御饌を失うことの危うさを知るリュクトワスには、ギガイが短剣を求めた意味もギガイがここにレフラと向かう意味も分かっていたということだろう。 「まぁ、そのおかげで傷が深くなく、出血も抑えられており良かったです」 確かに短剣とは言えども柄まで刺し込んでしまっていれば内臓を傷付ける可能性はあった。そのうえ抜いてしまえば大量出血で危なくなるのだから、リュクトワスとしてはリスク回避をしたかったのだろう。 だがギガイは何も今日レフラへ殺せと言っているわけではないのだ。だから当然急所も避けている。ただその時の話をしただけだった。 「今日予定していたわけではないのだがな」 「今日だけではなく、今後とも回避をお願い致します」 リュクトワスとしてはこんな騒動はもう2度と願い下げなのだろう。ハッキリと苦笑を浮かべた姿にギガイが口角を引き上げてニヤッと笑った。 「なに、私が亡き後はお前が一族を率いれば良い。私を手玉にしようとするぐらいだ、お前なら可能だろう」 「とんでもございません。以前も申し上げた通り、細く長く生き長らえるのが目標でございます。そうして穏やかな老後を過ごさせて頂きます」 「おや、細く長く生き長らえて私に仕えるのではなかったのか?」 「おや、そうでしたでしょうか?最近心労が重なりまして、眠れない日々を過ごしていたため少し物覚えが悪くなったようでございます」 「……お前も言うようになっているな。本当に私が亡き後はお前に任せることにしよう」 何を言っても平然と言い返すその姿に、呆れたようにギガイが言った瞬間だった。 「ギガイ様!!」 レフラの怒った声が耳に届いて、ギガイが驚きに目を見開いた。

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