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第184 直後の2人 5
寝台の上で眠るレフラへ視線を落とす。
眠ったばかりなのか、少し眠りが浅いような気がしていた。そんなレフラを間違えても起こさないように気配を殺してそっと顔をうかがい見る。
あの灰色がかった青い目が見えないことは残念だが、それでもいつもと変わらずそこにいるレフラの姿に疲れが少しは癒えるようだった。
外からは降り続ける雨の音が絶え間なく聞こえてくる。
気が付けば雨季の時期に入ってもう1週間が経っていた。ケガを負ったことでレフラの機嫌を損ねたのが雨季に入る数日前のことだったことを思い出せば、もう10日以上はまともにレフラに触れていない。
ふぅ、と溜息を吐き出してレフラの髪をそっと梳いた。
あと2週間ほどで迎える雨季の終わりと同時に祭りがしばらく催される。祭の時期でなくても魔種の討伐や他種族への牽制など、書類以外にもギガイにはやるべきことが多い。
そんな日常の業務の合間に祭りの件で外部の者と調整を続けているような状況なのだ。特に今年は例年の祭りの手配に加えて、ギガイの寵妃の存在を外部に知られてしまったことで、警備体制が組み直しとなっていることもギガイの多忙さに輪をかけていた。
時間の足りなさに最近ではレフラと共に過ごす時間さえろくに取れていない。ただ触れることをレフラから禁止されている状況を思えば、それが良いのか悪いのかは正直なところ分からなかった。
(まぁ、いま下手に触ってしまえばそのまま抱き潰しかねないからな)
制御できないほど青臭くはない、と思っていた。だがこれだけの期間、存在を感じながら触れることさえできないのでは、さすがに辛くなってくる。
もう一度ギガイはレフラの頭を撫でて、身体をそっとその横へ滑り込ませて背を向けた。
本当なら腕の中に抱えて眠りにつきたいとは思っている。だが始めの数日間はレフラの方からの拒絶によって、そこから今に至るまではやむを得ずギガイの方から距離をとっている状況だった。
(拒絶していたレフラを箍が外れて感情のままに抱いてしまえば、またひどいと泣かせてしまいそうだ)
どうせ泣くのならそんな辛いと流す涙ではなくて、快感で蕩けて泣かせたい。
その時の姿が思わず脳裏を過っていく。身体の中で燻り始めた熱を意思の力で抑え込むように、ギガイは息を細く吐いて目を閉じた。
それから十数分経つかたたないか微妙な時間の経過後だった。寝返りでもうったのだろう。ギガイの背後で身じろぐようなベッドの揺れがわずかにあった。
その1度きりの震動にやっぱり寝返りだったかと、ギガイも意識を手放し始める。だがそんな意識が揺蕩うような中で不意に背中に感じたわずかな感触にギガイの意識が浮上する。
触れているとも言い難いぐらいの指先だけの接触だった。その指がそれ以上触れることもなく、でも引かれることもない微妙な距離を保っていた。
寝ぼけての行動なのかギガイが確認しようとした瞬間、震える空気の振動を感じたギガイが勢いよくレフラの方へ振り返る。
とっさに身じろいで顔を隠そうとしたレフラの動きを引き留めれば、案の定開かれていたその青い目は、潤みながら揺れていた。
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