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第185 直後の2人 6
「どうした?」
泣かせてしまうことがないように、注意を払ったはずだった。それなのに、なぜレフラの双眼に今にも零れ落ちそうな涙が盛り上がっている状態なのか。
腕を伸ばして眦に浮かんだ涙を拭う。その指をとらえたレフラの手が、ギガイの掌をギュッと強く握り締めた。そのままスルリと頬へ押し当てられる仕草に、ギガイの中で一瞬だけ燻り始めていた熱が本格的に煽られてくるようだった。
(情けない……)
そう思いながらも、誰よりも愛おしい存在を近くで感じながら触れられない日々なのだ。健全な肉体を持っている以上は煽られる欲だってそれなりにあって、理性を凌ぎそうにもなる。だから。
少し離れてろ。
なぜか今にも泣き出しそうなレフラをこれ以上泣かせることがないように、そう告げようとしたところだった。
「さみしいです……」
そのタイミングで重なったレフラの言葉に、喉元まで出かかっていた言葉をギガイが飲み込んだ。
「…触れて頂けないのが、さみしい、です……」
言葉が詰まったと思った瞬間、ポロッと落ちた涙にレフラが慌てたように手を離して、掛け布で顔を隠してしまう。
「ごめんなさい。たったこれぐらいで……」
泣いてしまったことを恥じているのだろう。だがギガイにすれば、泣かせないようにとった距離で、寂しいと泣かれてしまったことに戸惑いを覚えていた。
「……いまは触られたくなかったんじゃないのか?」
その言葉に、布の下でレフラの身体がビクッと震えたようだった。
「申し訳ございません、私が言ったことなのに……」
その声は『さびしい』と告げた時よりもずっと寂しげな音だった。
「お忙しくてお疲れなのにすみません。ワガママを言ってしまいました。明日? あっ、もう今日ですね。またお忙しいでしょうから、早く眠ってください」
掛け布の中で何を思って、何を堪えてしまったのか、顔を出したレフラの目から涙が消えて、申し訳なさそうな笑顔だけが浮かんでいた。
その状況に思わずギガイは溜息を吐いてしまう。
「なかなか上手くいかないな…」
「……申しわけーー」
「謝るな」
その言葉にビクッとまた身体を跳ねさせたレフラにギガイが気まずくなって、小さく唸りながら身体を起こす。それにレフラもつられたのだろう。同じように寝台に座り込んだレフラがギガイの方を戸惑ったように見ていた。
「こっちに来るか?」
両手を広げて見せればレフラが腕とギガイの顔を見比べる。
「良いのですか?」
そう聞いてくる言葉にギガイはやっぱりか、と内心で溜息を吐いた。
「あぁ、お前が触れられてもかまわないならな。それにさっきは『お前が言ったことだ』と咎めたわけではないぞ」
その言葉をレフラが苦手としていることは知っている。今までのようにその言葉で咎められたと思って気持ちを飲み込んだのだろう。
近付いてきたレフラの身体をヒョイッと掬い上げて、あぐらをかいたギガイの膝上に座らせる。
「ただ触れられたくない、と思うお前に触れて、泣かせてしまうことがないようにしたつもりだったからな……そのせいで、逆に泣かれてしまうとどうして良いかわからん……」
そう言ったギガイの声音は本当に困惑しているようだった。
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