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第186 直後の2人 7
改めてそう言われて、振り回しているひどさに恥ずかしくなってくる。
「あ、あの本当に申し訳ございません」
あれもイヤ。これもイヤ。
そうやってグズる自分はどこまで子どもだったのだろう。
恥ずかしくていたたまれなくて、せっかく久しぶりに感じるギガイの温もりなはずなのに、レフラは甘えることなんてできなかった。
「いや、責めているわけではない。ただどうしたものかと思ってな……。前も言ったが、私はお前が望むのなら叶えてやるし、お前が望まないことをしたくはない」
そんなレフラの身体を引き寄せたギガイがトントンと柔らかく身体を叩いていく。レフラのいまの心情なんてギガイには筒抜けだったのだろう。
甘えきれなかったレフラの身体をギガイの方から甘やかし始めた状況に、ギガイを見上げたレフラの目の奥が熱くなる。そのままギガイの身体に腕を回して力を込めた。
体格差がありすぎて、抱き締めるというよりは縋り付くような姿勢にしかならない。さまにならない姿にレフラは不満を感じながら、ギガイの胸に頭を擦り寄せた。
クククッと小さな笑い声が聞こえてくる。きっとそんな心情さえもお見通しだったのかもしれない。
機嫌よさげに笑ったギガイがそんなレフラの顎を掬い上げて、チュッとついばむようにキスをした。
「だが、言葉を額面通りに受け取って同じことを繰り返すわけにもいかないだろう。かと言って受け取らずにやり通して、お前に嫌われてしまっては話にならないからな」
「嫌ったりなんてしません!」
「だが、絶対にイヤだと言われて、押し通すのも難しいぞ」
「そ、それは……な、なら」
「なら?」
「どうしてもダメな時はそう言います。嫌いになる、ってそう言います」
「…ッブ、アハハハハハ!」
息を吹き出すような音のあと、ギガイがたえきれないと笑いだす。
「ギガイ様! 一生懸命考えたんです、笑わないで下さい!!」
今まで見たこともないぐらい盛大に笑われて、恥ずかしさに頬が熱くなる。
「それは分かりやすいから、良いな」
笑いながらそう言ったギガイの瞳が蜂蜜色にとろけていて、視線が交わったレフラの心が甘い痺れを感じていく。それと同時に身体の奥がキュンと疼くようだった。
(このまま交われたら良いのに……)
思わず湧き上がってきた情欲に、レフラは恥じるように顔を伏せた。
夜はとうに更けていて、連日の激務でギガイだって疲れているはずなのだ。ただでさえこうやって貴重な睡眠の時間を削ってしまっているのだから、いますぐにでも身体を休めてもらうのが良いだろう。
それにレフラからギガイへ求めたのは過去に1度きりだった。あの時はギガイを失う日への怯えで必死だったが、今日のように冷静な状況で抱かれたい、とレフラから欲したことは1度もないのだ。
そんな中でレフラの方から求めることは、すごくハードルが高いことだった。こんな風にギガイが多忙な状況でなかったとしても、どうすれば良いのか結局分からない。
(いままでずっとギガイ様から求めてくれていたから……)
そしてレフラは与えられるものを黙って受け入れるだけで良かったのだ。隷属の関係ならそれで良かったのかもしれない。でも隷属ではなく対等な番だというのなら、なおさら同じように求めて、与えきれるようになりたかった。
レフラが与えてもらえて感じる幸せを同じようにギガイへも差し出して、レフラの手で幸せにしたかったのだ。
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