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第4 雨季の時期 4

「それでしたら、せめて何かできることはないですか?」 「お前はただこうやって私のそばにいれば良い」 「でも」 「お前を働かせるつもりでここに連れてきたわけではない。昨夜はあまり寝ていないだろ。眠っていろ」 「眠くありません。大丈夫ですから、なにか」 ギガイを見つめるレフラの目に必死な色が灯っていく。 「お前を働かせるつもりはないと言っただろう。お前は気にしなくて良い。眠くないなら、何か本を持ってこさせるか?」 「そうじゃないんです! そういうことではないんです……」 一瞬声を張り上げたレフラが言葉を飲み込んで俯いた。 それっきり黙り込んでしまう様子に、ギガイが困ったような表情を浮かべて手を上げて部屋からリュクトワス達を退出させる。 扉が閉まった後には、窓ガラスを打つ雨の音だけが聞こえていた。 「言葉を飲み込んでしまうな。そういうことではないのなら何だ? 教えてくれないか?」 俯いた顔を両掌で掬い上げてレフラの目を覗き込む。 「…また、御饌だからですか……また御饌だから、私は何もさせてはもらえないのですか?」 眦に添えた指先は乾いたままだった。向けられた目も潤んではいない。だけど傷付いたような色をしていた。 泣いていないのに、その訴える声はまるで慟哭のように聞こえてくる。 その言葉に報告書で呼んだ跳び族での日々を思い出す。 「…また独りです…一緒にいるのに、私だけ……」 独りを何よりも苦手としていることは分かっている。そんなレフラがいま感じている孤独感は、ギガイが想像している以上だろう。 「独りではない。独りにはさせない。お前は私に寄り添う唯一の者だろ?」 なだめるように顔中に柔らかくキスを落としていく。 「…でも、寂しいです。いつだって私は独りで見ているしかできない…その中に入る余地は一度もない…つらいです…」 ともに在るはずのギガイさえも、この瞬間はレフラを蚊帳の外に置いているようなものなのだ。 疎外感が大きかったのかもしれない。 「悪かった。そんな思いをさせたいわけではない。さっきのは、お前に負担を与えたくないという意味だ」 宥めるようなキスをする。 「それにな……」 「それに?」 話し出しながらも、何かを迷うようにギガイが不自然に言葉を切った。だがその先が気になるのだろう。レフラが促すように言葉を繰り返しながら、ツンツンと服を引っ張っている。 こそばゆいその指を握り込んで押し止めながら、ギガイがそんなレフラへ苦笑を浮かべて見せた。 「お前は私の寵妃だぞ。寵妃を働かせているなど、私に甲斐性がないみたいだろ」 よほど意外な言葉だったのか、レフラの目が丸くなる。 「……ギガイ様が、甲斐性なし…」 だからその言葉も思わず呟いたのだろう。そんな単語をなぞるだけの音だった。だけど、その言葉にギガイは眉を顰めた。 「おい、響きが悪いぞ」 意味を理解しての言葉ではないと分かっている。それでも、唯一無二としているレフラの口から聞きたい言葉ではないのだから。 ギガイが顔を顰めたままレフラをつつけば、我に返ったレフラがクスクスッと押し殺すように笑い始めた。

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