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第3 雨季の時期 3

「近々祭りがあるだろう。その警備の兼ね合いでだ」 「祭りの警備のためですか?」 それがなぜ今こうやって、ギガイの執務室にいる理由となるのかが分からない。レフラは首を少しかしげながら、ギガイの方へ顔を向けた。 「お前の存在が、外へ伝わったタイミングがマズイ。伝わってしまった以上は、警備を厚めにする必要があるが、ただでさえ警備を1カ所へ集中できない状況だ。だが、今さら育成も間に合わん」 「…申し訳ございません……」 なぜそんな状況になってしまったのか、とても心当たりがあるだけに、レフラは俯いた顔を上げられなかった。 「いや、あれはお前だけのせいではないと、言っているだろう。私も原因となってのことだ、落ち込むな」 レフラへ甘いギガイがいくらそう言ったとして、他の者達はきっとそんな風には思えないはずだ。後ろめたく思いながら、レフラがこわごわと周りを見渡してみる。だけど視線が合った3人や、何らかの事情を知っているのかアドフィルまでも、苦笑を浮かべて頷いていた。 「だがそんな隙を突かれて、お前を狙われでもしたら厄介だからな。だから祭りの期間、1番安全に守れる場所に置く事にしただけだ」 「それがこの部屋なんですか?」 「いや、私のそばだな。強いて言うなら、いつも通り腕の中という事だ」 「待って、ギガイ様、祭りの間ずっとですか!?」 「あぁ、そう決めている」 「でも、視察は? ずっとこの部屋に、いるわけじゃないんですよね??」 いつもの宮でいつもの人達だけならともかく、それ以外にもとなると、腕の中に常に抱き上げられる姿は、あまりに恥ずかしすぎるのだ。 「市井の視察か? お前も一緒に出れば良いだろう。それこそずっと抱えている」 だが案の定さらっと言われた言葉に、レフラは目眩がするようだった。 「待って、せめて一緒について行くだけにさせてください……」 「ダメに決まってるだろ」 すげなく断られる言葉に無駄だと知りつつも、レフラは周りに縋ってみる。視線が合った瞬間、サッと目線を逸らそうとしたラクーシュを、逃がさないとばかりにレフラが名指しで質問した。 「ラクーシュ様も、ちゃんとお傍に付いていれば、大丈夫だと思いませんか?」 味方をどうにか得ようとしての言葉だった。だけど。 「いやぁ、レフラ様の存続は、黒族の存続に関わるので、申し訳ないです。諦めて下さい!」 そう言って、勢いよく頭を下げられてしまったのだ。他の人達も同じ意見なのか、うんうんと頷く姿に、レフラは再びガクッと肩を落としてしまった。 「でも、それでしたら祭りの期間のみでも、良かったと思うのですが……」 ただでさえ祭りの期間中、恥ずかしい目に遭うことは決定なのだ。せめていまだけでも、あのギョッと見られる事態から抜け出たい。 「ここに出入りする臣下には、私の近衛隊の者達も多い。何かあった際に、守るべき対象の顔すら分からないのでは、話にならないからな。癪に障るが、今から顔を覚えさせておけ」 だけど警備に必要な事なのだ、と真っ当な理由を告げられてしまえば、レフラはもうそれ以上は、反対することができなかった。

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