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第16 移り香に揺れて 3

「こんなに早く戻ってきてしまって、本当に大丈夫ですか?」 最近では日を跨ぐことが当たり前な状態だったのだ。こんな早い時間にギガイと寝台にいる状況に、レフラはだいぶ戸惑っていた。 「今日は上がってくる書類が順調だったうえに、お前の警護の問題も片付いたからな。特に問題はない。だからお前も休め」 寝台の上に座り込んでギガイの方を見つめていたレフラへギガイがこっちに来い、と手招きをする。そんなギガイをレフラは躊躇い半分、期待半分で見つめていた。 本当は、気を失った上に、調子が悪いと寝込むようなマネをしたレフラを心配して、早めに切り上げてくれたのかもしれなかった。それを思えば申し訳ない気持ちにもなる。それでも久しぶりにゆっくりと触れ合えるかもしれない状況に、レフラの心は弾んでいた。 だって今のレフラにできること。といえば、交わることぐらいだけなのだ。 レフラがシーツの上を這うようにギガイのそばに近付く。だが、そのまま腕を取られて引き寄せようとするギガイからは、そういった雰囲気は感じられない状態だった。 そのまま抱え込もうとするギガイの腕の中で身体を起こして、ギガイの唇へキスをする。 軽く触れて離れるだけのキスだった。いつもギガイから与えられる口付けに比べればあまりに拙く、キスとも呼ぶのも躊躇う程度だとは分かっている。 それでも慣れない行為に、レフラの顔はどんどん熱くなっていた。 「ギガイ様、したいです……」 恥ずかしさをどうにか堪えながら、レフラが小さな声で訴えてみる。もしかしたら煽られたギガイに前回のように意地悪をされたり、貪られるように抱かれてしまうのかもしれなかった。 でもその記憶は不安と同時にレフラを安心させてくれる。だってギガイが求めるものを差し出すことができるのだ。 むしろもっと求めて欲しかった。 「…いや、お前も疲れているはずだ。今日はもう止めておこう」 それなのに聞こえてきたそんな言葉にレフラは目を見開いた。 「そんなことはありません!! 私は大丈夫です! 平気です!」 「今日は倒れて、あの後も体調が悪くて伏せていただろう」 「それは……」 「だから、今日はもう休め。私はこんな時にまでお前にムリをさせたくはない」 ギガイが本心からそう言ってくれているのだということは分かっている。気遣わしげに見つめる目は柔らかい。でも今のレフラにその優しさは、むしろ心を苛むものだった。 「な、なら。ギガイ様のをしてみたいです!」 これなら自分の身体への負担は少ないはずだった。その上、ギガイを気持ち良くすることもできるのだ。 それはレフラにとっては、良い案だと思われた。

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